墨家/毛沢東

承前*1

前田年昭「墨家毛沢東思想」http://www.linelabo.com/cr021.htm



戦国時代に孔子の弟子たち(儒家)と対峙,天下の思想界を二分したのが墨家である。墨子孔子の「仁」から出発したが,工商業者の思想,市民社会の思想として発展させられ,「天下の賤人」たる工人を教育,組織した。これは,毛沢東が,近代西欧の個人主義アナキズムマルクス主義から出発して「大同」を主張し,社会の最下層の遊民,外村人,工人階級を教育,組織し,強力な解放軍をつくりあげたのと酷似している。ともに「防禦」から出発する弱者のための軍事論であったことも共通である。

墨家は滅んでのち,その思想は「墨侠」と呼ばれる遊侠集団にうけつがれた(増渕龍夫『中国古代の社会と国家』)。その社会的基盤は最下層の遊民である。現代の中国遊民無産階級の心に,墨家の思想が生きつづけていたからこそ,かれらは毛沢東に共鳴し,宗教的にまで帰依したのである。毛沢東の死後,中国の党は変色し,社会は変質してしまった(東嶽廟では官職を得たいという神さまに人気が集中し,北京では地下道でも法源寺の門前でも乞食が物乞いをしている)。
但し、文革末期の〈批林批孔〉に絡んで、大いに持ち上げられたのは墨家ではなく法家であった。