死刑とストレス

『朝日』の記事なり;


杉浦法相、死刑署名ゼロ退任 当局と最後まで攻防
2006年09月26日09時45分

 杉浦法相が死刑執行命令書に署名を拒否したまま26日の任期を終える見通しとなった。法相の判断で死刑を執行しないのは、93年に後藤田法相が死刑執行を再開して以来初めて。

 世界的には死刑廃止の傾向が強まり、日本では犯罪被害者の意向を反映した厳罰化が進んでいる。

 93年の執行再開以来、5カ月以内に退任して判断を求められなかったとされる4人を除けば、「法相の判断」として執行しなかった例はない。

 一方、毎年の執行数は1〜3人程度と減ってきており、9月15日現在で未執行の確定者は89人に達している。

 杉浦法相は昨年10月の就任会見で死刑執行について「私はサインしない」と明言し「心の問題、哲学の問題」と説明。1時間後に撤回したが、周囲には「本音が出た」と漏らしていた。

 法務省の事務当局は法相との攻防を任期最終盤まで続けた。「ほかの大臣だったらここまでしない」。法務族の中心人物で弁護士という、法務行政を知り尽くしているはずの人物に「人が人を殺せるのか」と疑問を投げかけられては、制度の根幹が揺らぎ、今後の執行に大きなマイナスになるとの危機感があった。

 「中長期的には死刑廃止でいいかもしれないが、社会がこれだけ犯罪被害者に振れている中では、手順を踏まないといけない」という考えも、法務当局の中にはある。

 今夏。こんな「説得」も行われた模様だ。

 「職責を全うした大臣が終身刑の創設を法制審に諮問するなら重みが違うが、今サインしなかったら逃げているだけだと思われますよ」

 本格的な説得は9月初旬から約1カ月にも及んだ。法務当局は3人の死刑確定者をリストアップし、法相に概況説明。法相は「自分で記録を読む」と言い出し、「キャビネット一つ分」はあるという書類を、大臣室に持ち込むよう指示した。

 法務当局は何度も法相と面会。「今までの功績が台無しになります」などと懸命の説得を続けたという。さらに、官邸の突き上げも激しかった。松本智津夫死刑囚の死刑確定を受け、小泉首相は「いかなる刑でも、整然と執行されるべき問題」と発言した。

 9月上旬。法相は自らも門徒である浄土真宗大谷派の幹部から「執行拒否の信念を貫くように」と激励文をもらうなどした。その時の反応から、「内々だが、サインしないとの確信を得た」と幹部。同派の僧侶らとは3月にも会い、「意外と隠れ死刑反対派は多いんだ」と自民党の大物に励まされた話も披露した。

 「思ったよりも市民は理解を示す、世論は厳罰化に向いていても死刑執行にはまた別の感情があるのかもしれない、という政治的な勘があったのではないか」とある法務省幹部はみている。

◇最近の法相と死刑執行人数

 法相  在任期間 執行人数

後藤田正晴 7カ月  3

三ケ月章  8カ月  4

永野茂門  0カ月  0

中井洽   1カ月  0

前田勲男  13カ月  5

田沢智治  2カ月  0

宮沢弘   3カ月  3

長尾立子  9カ月  3

松浦功   10カ月  7

下稲葉耕吉 10カ月  3

中村正三郎 7カ月  3

陣内孝雄  6カ月  3

臼井日出男 8カ月  2

保岡興治  5カ月  3

高村正彦  4カ月  0

森山真弓  28カ月  5

野沢太三  12カ月  2

南野知恵子 13カ月  1

杉浦正健  10カ月  0

(敬称略。在任期間1カ月未満は切り捨て)
http://www.asahi.com/national/update/0925/TKY200609250442.html

民間企業でも従業員の首を切るというのは担当の管理職にとってすごくストレスが溜まることらしい。この方の場合は、仏教徒としての宗教的信念に基づくものらしいが、そうでなくても、サイン1つで人を殺せるというのはストレスフルであろう*1。こんな権力なんて持っていなくてよかったと安堵する人も多いのでは? 勿論、こういうサインを領収書にサインするのと同じようなお気楽さでやったら、人格を問題視したくなるということもある。
ところで、「死刑執行命令書に署名を拒否した」としても、刑法改正=死刑廃止を提案しない限り、問題の先送りにすぎないということもいえるだろう。また、「官邸の突き上げも激しかった」ということだが、そもそも小泉(既に)元首相はこの人が死刑反対派だと知りながら、法務大臣に任命したのではないの?

*1:さらに辛いのは、実際に手を下す刑務官だろう。