「昭和館」(メモ)

元村有希子*1「小さな映画館の夢」『毎日新聞』2022年12月10日


北九州市の映画館「小倉昭和館*2について。


(前略)レトロな外観、サイン色紙が並ぶロビー、緑色のシートが急勾配で配置された観客席。見慣れた景色を見た途端、こみ上げるものがあった。昭和館は今年8月に火災で全焼、今は跡形もない。

館主の樋口智巳さん(62)が昭和館を継いだのは10年前のことだ。創業は1939(昭和14)年。祖父が映画館兼芝居小屋から始め、父が守り抜いた家業を3代目で潰すわけにはいかないと、無我夢中で走ってきた。
専業主婦からの転身。経営に関しては素人だが、映画愛は人一倍との自負がある。良質の作品を上映するだけでなく、トークショーなど人々が集う場として、さまざまなアイデアを実現してきた。
歴史が築いた映画人との絆が財産だ。俳優の奈良岡朋子さんは「映画文化の砦」と評した。コロナ禍を乗り切り、あれもやろう、これもやりたい考えていた時に、隣接する旦過市場一帯が火事になった。
駆けつけたときには既に火が迫り、燃え移るとあっという間だった。創業当初からの神棚も、大切に使い続けた35ミリ映写機も、心の支えにしていた高倉健さんからの手紙も持ち出せなかった。
昭和館は私の居場所でした」。一夜明け、波ながらに樋口さんに声をかけてくる大勢の人がいた。映画を見るだけの場所ではなかったことを知った。片付けられた跡地を見ると、80年余の記憶まで失われるようでつらい。けれど土地と建物は借り物、経営難で蓄えも乏しい。

実は、焼け残ったネオンが倉庫に眠っている。地元出身の作家、リリー・フランキーさんに強く促され、焼け跡から回収した。これを形見として、支えてくれるすべての人たちと「新しい昭和館」を作りたいと樋口さんは考えている。

「小倉昭和館」は2023年12月に復活した。


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大倉美智子「小倉昭和館が再建 旦過市場火災から1年4か月」https://www.nhk.or.jp/kitakyushu/lreport/article/002/24/