Narrow系

小松貴*1「ゴミムシ戦記 II」(『にっぽん怪虫記』)『波』(新潮社)617、pp.98-103、2021


そうだったんだ!


最近、巷では「異世界転生」*2をテーマにしたラノベや、それを原作とするアニメが流行りに流行っている。パッとしない生活を送っていた男主人公が、ある日路上でご都合的にトラックと事故るなどして死に、こことは違う異次元の世界に生き返る。そこでなぜか神から全知全能の力を授かったり、あるいは勝手にその力に一人で目覚め、その世界では誰一人倒せなかったモンスターやら悪党やらを軽々とぶちのめしたり、誰も解けなかった謎をあっさり解く。そしてその国で王となり、(これが特に重要だが)美少女の群れに徒にモテまくるのだ。なお女主人公の場合、決まって悪役令嬢に転生してイケメンを侍らせたりたぶらかしたりする。
こうしたラノベは、主に「小説家になろう」という小説投稿サイトから生まれたもので、日々物凄い数の書き手により、物凄い数の小説が投稿されている。ただ、言っちゃ悪いが、全体的に「なんの苦労もせず得た力で、名声も異性も恣にする」内容のものが大半を占め、呼んでも何だかベルトコンベアに乗せられたまま何の起伏もなく流れていく景色を見せられている感じの作品が多い。
努力しても報われず、悪いことをした奴が何の責任も取らずのうのうと暮らしているこの現実社会で、満たされない者達がせめて空想世界の中だけでも救われたいというオーラが、(少なくとも私の今まで目にした)どの作品の端々からも滲み出ているのを感じる。何というか、小説の名を借りた作者の「ただの願望」を読まされている感じがする。そのため、これらの小説は俗に「なろう系」と称され、(もちろんそうした内容のものばかりではないらしいのだが)しばしばネット上で十把一絡げに批判される。(p.98)
これは昆虫学者による虫についての話であり、ここでのテーマは「キベリマルクビゴミムシ」である。