忽那賢志*1「新型コロナ 変異株「ミュー」「新たなデルタ株」について現時点で分かっていること」https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210907-00256573
「ミュー」変異株について;
ミュー株は2021年1月にコロンビアで世界で最初に見つかりました。現在はコロンビア(39%)、エクアドル(13%)などの南米諸国で主流な変異株の一つとなっています(ただしこの数値はゲノム解析されているウイルスの中での割合であり実際の感染者の割合とは異なることがあります)。
9月4日時点で日本を含む46カ国でミュー株が検出されています。
最もミュー株による新型コロナ患者が報告されているのはアメリカ合衆国であり、これまでに2000人以上からミュー株が検出されていますが、占める割合としては1%未満にとどまっています。
8月30日、日本で初めてミュー株の患者2名が報告されました。この2名は、6月26日にアラブ首長国連邦から入国した40代の女性と7月5日にイギリスから入国した50代の女性で、いずれの患者も無症状だったとのことです。
ミュー株には、合計21の変異があり、スパイクタンパク質に9つのアミノ酸変異があります。
この変異の中には、N501YやE484Kといった、アルファ株やベータ株、ガンマ株などが持つ既知の変異が含まれています。
N501Y変異はアルファ株、ベータ株、ガンマ株が持つ変異であり、感染力の増加と関連していると考えられています。
またミュー株はアルファ株が持つP681H変異も持っており、この変異も感染力が増加する可能性が示唆されています。
しかし、現時点ではミュー株が従来の新型コロナウイルスと比べて感染力が強くなっているという知見はありません。
例えばアメリカでは2021年4月頃からミュー株の検出が増加していましたが、7月頃をピークに減少に転じています。
アメリカでは現在、デルタ株が拡大し主流となっていますが、少なくともデルタ株に置き換わって拡大するほど強い感染力ではないように見えます。
重症度についてもまだ十分なデータはありません。
ミュー株が広がっているコロンビアでも、周辺国と比べて特に致死率が高くなっているということはなさそうです。
「新たなデルタ株」について;
イタリアで発生した7例のクラスターから検出されたミュー株に対するファイザー社のmRNAワクチン接種者の効果を検証した研究では、従来のウイルスと比べるとわずかに効果が落ちたものの、ワクチン接種者の血清はミュー株を十分に中和したとのことであり、現時点では大きな懸念ではないものの、まだ十分なデータがあるとは言えない状況です。
発見した東京医科歯科大学のプレスリリースによると、2021年8月中旬の新型コロナ患者から検出したデルタ株*2から、アルファ株の持つ特徴的な変異であるN501Y変異に似た変異である「N501S」という変異を持つ新たなデルタ株が検出されたとのことです*3。この患者さんには海外渡航歴がなかったということで、日本国内で感染したものと考えられます。
まだこの変異株は世界で8例しか見つかっていないことから、感染性、重症度、ワクチン効果や再感染リスクに関するデータはなく、今後の知見が待たれます。
少なくとも従来のデルタ株と同様に、感染性の増加、重症度の増加、ワクチン効果の低下という特徴は持つものと予想されます。
*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/08/09/170346 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/01/23/152747 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/05/30/100053
*2:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/08/23/222341 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/09/07/001914
*3:東京医科歯科大学「「N501S 変異を有する新たなデルタ株(B.1.617.2 系統) の市中感染事例(国内第1例目)を確認」~医科歯科大 新型コロナウイルス全ゲノム解析プロジェクト 第8報~」https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55788_ext_04_2.pdf