「歌う犬たち」

Michael Price “New Guinea’s mysterious singing dogs found again in the wild” https://www.sciencemag.org/news/2020/08/new-guinea-s-mysterious-singing-dogs-found-again-wild#
Alex Fox “Thought to Be Extinct, New Guinea’s Singing Dogs Found Alive in the Wild” https://www.smithsonianmag.com/smart-news/new-guineas-singing-dogs-found-alive-wild-180975704/
Katie Hunt “Rare 'singing' dog, thought to be extinct in wild for 50 years, still thrives” https://edition.cnn.com/2020/08/31/asia/singing-dog-found-in-wild-scn-trnd/index.html


そもそもニューギニア高地に生息する、コーラスするように遠吠えをする「ニューギニア・シンギング・ドッグ」*1という犬の存在、またそれが野生では既に絶滅していると信じられており、現在約200頭が動物園で飼育されているのみであるということを知った。その「ニューギニア・シンギング・ドッグ」の野生での生息が確認された。ハイランド・ワイルド・ドッグという、殆ど目撃したという噂と数枚の写真のみによって知られている犬がいる*2。2015年に動物学者のJames McIntyre氏がハイランド・ワイルド・ドッグを発見し、写真を撮影し、15頭分の糞のサンプルを収集した。さらに、2017年には16頭が捕獲された。米国国立ヒトゲノム研究所*3のElaine Ostranderさんらの研究者はこの16頭の遺伝子を飼育されているニューギニア・シンギング・ドッグ やその他の犬種の遺伝子と比較・分析した結果、ハイランド・ワイルド・ドッグとニューギニア・シンギング・ドッグはほぼ同一であるという結論を導き出した。但し、ハイランド・ワイルド・ドッグは地元の野犬の血が若干混ざっている。また、飼育された ニューギニア・シンギング・ドッグは近親交配の結果、遺伝子の劣化が著しい。ハイランド・ワイルド・ドッグもニューギニア・シンギング・ドッグも濠太剌利のディンゴに近い。また、チャウチャウ、秋田犬、柴犬といった亜細亜の代表的な犬との関係はディンゴよりも遠い。
ニューギニア・シンギング・ドッグもハイランド・ワイルド・ドッグも、野生とは言え、狼ではなくあくまでも犬である。つまり、元々は人間に飼われていたのが、人間に捨てられるか自ら脱走するかして、野生化したものだ。これらの犬たちの系譜が明らかになることは、ニューギニア人、歌う犬を飼っていた人たち、或いはニューギニアに持ち込んだ人たちの起源を明らかにすることにもつながるのでは? 因みに、ディンゴが濠太剌利に生息するようになったのは3500年前くらいだという。
最初に言ったように、 ニューギニア・シンギング・ドッグもハイランド・ワイルド・ドッグも知らなかった。乏しい(またかなりステレオタイプ的な)知識に基づけば、ニューギニア高地というのは犬ならぬ豚の国という印象が強い。豚こそが権力と富の象徴である社会。かつて本多勝一*4が長期の取材を行い(『ニューギニア高地人』)、作家の有吉佐和子*5も旅行しているのだが(『女二人のニューギニア』)、彼女らの本に「犬」の話があったかどうかは、記憶が定かではない。