「庭の中から生まれた」(メモ)

桑木野幸司「修道院の庭:身体と魂を浄化する緑地」『パブリッシャーズ・レビュー』84、p.7、2020


曰く、


自給自足を旨とするキリスト教修道院にとって、菜園・薬草園は必須の設備だ。いや、修道院制度そのものが、庭の中から生まれたといってもいい。エジプトの隠修士パコミウス(二九〇頃―三四六)が、菜園を壁で囲って、祈りと居住の地としたのがその嚆矢だという。以降、欧州全域に広まっていった修道院においては、菜園、果樹園、薬草園などが敷地内に必ず設けられ、園芸知識の或る修道士を自前の庭師(horrulanus)として管理にあたらせた。また修道院といえば祈りのほかに学究の場でもあるが、全科博士アルベルトゥス・マグヌス(一一九三頃―一二八〇)は、その植物論のなかで、青葉が茂る芝ほど学徒の疲れた目をいやすものはないと記して、緑地の重要性を説いた。
中世ヨーロッパにおいては、宮廷が移動するものであったため、権力のディスプレイとしての庭園は発達しなかった。

(前略)対して修道院では、固定した敷地の中で、食料・薬品の生産(実利)と魂の慰安(精神性)の両方を満たす場として、庭園が発展していったのである。なかでもベネディクト会の戒律では園芸と農業労働が奨励されたため、修道士たちは「庭師としてのキリスト」を熱心にまね、日々園芸作業に従事した。