出版社の思惑など

承前*1

篠田博之*2「あの「ロス疑惑」騒動に似てきた「紀州ドン・ファン」怪死騒動の新展開」https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20180625-00086958/


曰く、


警察は関係各所に家宅捜索を行うなど精力的に捜査を進めているようなのだが、まだ事件として立件するには至っておらず、現時点ではこれが殺人事件なのかどうかもわからないのが現実だ。しかし、週刊誌やワイドショーは「犯人視報道」と言ってよい大報道を展開している。かつての「ロス疑惑」事件や、和歌山カレー事件を彷彿とさせる騒動なのだが、ここへきて妻が弁護士を雇って疑惑報道を展開する週刊誌を次々と告訴したり差し止め請求の仮処分を申請したりし始めている。報道をめぐるこういう攻防戦も、「ロス疑惑」事件を思い起こさせる。
警察による「立件」以前からの疑惑報道ということではそうなのだろう。しかし、具体的なプロットにおいては、今回は「ロス疑惑*3とはかなり違っているようだ。「ロス疑惑」では、メディアや世間の注目は三浦和義という或る種のカリスマ的人物に集中し、しかも、悲劇の主人公から凶悪犯罪者へという、ジェット・コースター的などんでん返しがのっけからあった*4。それに対して、今回の場合は、あの悪目立ちしているらしい若い女性にしても、まだ大勢の中の一人にすぎないようだ。
さて、篠田さんにとっての、「ロス疑惑」の意味は興味深い;

 1984年の「ロス疑惑」事件は、それをきっかけに今に至る「報道と人権」をめぐる議論が始まったという意味で、エポックメイクな騒動だった。当時ターゲットにされた三浦和義さんの逮捕直後から1年以上にわたって、大報道にさらされる側からマスコミ報道を検証したらどう見えるかという連載を続けたのが、月刊『創』だった。多くの市民はテレビカメラを通して三浦さんを追いかけているのだが、その三浦さん側から見たら騒動はどう見えるのか、というのを連載したのだ。

 これはつまり視点や立場を変えると報道がどんなふうに見えるかを検証するという、メディアリテラシーの実践だったのだが、当時、大量の週刊誌やスポーツ紙、新聞のテレビ欄などを連日コピーして獄中の三浦さんに送り、彼の視点から論評してもらうというその作業のために、スタッフ1人が張り付き、私は毎月東京拘置所に通うという日々が続いた。叩かれている側からマスコミ報道を見てみるというこの視点は、その後の『創』の基本パターンのひとつになったという意味でも思い出深い。

また、この篠田氏の文章を読んでわかったのは、この死亡事件が事件として構築されたことに関しては講談社という出版社の思惑を抜きには理解できないということだ。これも大した根拠はないのだけど、雑誌部門と書籍部門との連携ということでは、講談社は新潮社や文藝春秋の上を行っているのでは?
さて、


木村隆志「「紀州のドン・ファン」過剰な報道への違和感 」https://toyokeizai.net/articles/-/225394


この6月16日付の記事で、木村さんは


最初は「美女4000人に30億円を貢いだ資産家・紀州ドン・ファンが亡くなった」という穏やかな報じ方でしたが、すぐに論調が一変。「55歳年下のモデルと今年2月に結婚したばかり」「愛犬のイブも5月6日に急死していた」「警察が死因を『急性覚せい剤中毒』と発表」などのキナ臭い続報が次々に報じられました。

この手の過激な報道は、週刊誌ではごく当たり前のことであり、特に驚きはありません。しかし、ワイドショーの各番組が、「まるで刑事ドラマでも見ているか」のような報じ方をしていることは看過できないのです。

と述べている。さらに、

 ワイドショーの各番組には、司会者とコメンテーターのレギュラー陣に加え、「元刑事」「元麻薬取締官」「弁護士」などの専門家が登場。これを刑事ドラマに置き換えると、司会者・コメンテーター・専門家は、刑事と捜査協力者に当たり、事件を解決するためにさまざまな考察を展開していきます。

刑事ドラマにおける事件解決への第一歩は、「死因の確定」と「容疑者の浮上」。ワイドショーの各番組も、当初から死因にふれてから、「覚せい剤を自分で打つ量にしては多すぎる」などの不自然な点を指摘することで、さまざまな人物を浮上させていきました。

55歳年下妻、溺愛されていた愛犬・イブ、ホステスのような派手な服を着た家政婦、つい最近まで会話を交わしていた近隣の友人、野崎さんの会社に勤めていた元従業員、親交の深かったデヴィ夫人。刑事ドラマで言えば、容疑者候補のキャストを登場させ、視聴者に「この人があやしい」「きっとこいつが犯人だ」と予想させる段階です。


しかし、ここまでの報道を1時間の刑事ドラマにたとえると、まだスタートから30〜40分の中盤にすぎません。犯人逮捕、犯行方法や理由の解明は、まだ先であり、私たちはそれ以前の段階を長々と見せ続けられているのです。
また、

最後に話を少し広げると、いまだ収まらない日大の騒動*5に関するワイドショーの報じ方にも似た現象が見られます。

選手、監督・コーチ、学長、理事長と、次々に悪役を登場させ、一人一人成敗していくような展開は、まるで勧善懲悪のドラマ。事実、最初に行われた選手の謝罪会見では、ワイドショーのリポーターたちが、怒りや憎しみを引き出すような質問を繰り返して、巨悪をあぶり出そうとしていました。その質問内容はジャーナリズムというより、ドラマ演出のようだったのです。

2013年に社会現象となった「半沢直樹」(TBS系)*6の大ヒット以降、勧善懲悪ドラマが量産され続けていますが、それがワイドショーの演出にも波及しているということではないでしょうか。勧善懲悪ドラマで、真っ先に思い浮かぶのは時代劇。かつて「水戸黄門」などが再放送されていた時間帯に放送しているワイドショーは、時代劇の代替品となっているのかもしれません。

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180612/1528776405 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180617/1529170865 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180620/1529456375 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180624/1529864176

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100606/1275795070 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141208/1418006689 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170329/1490807240

*3:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080226/1203991862

*4:起の段階で、まだ承も始まらないのに転が起こった、みたいな。

*5:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180515/1526402283 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180517/1526526344 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180518/1526605124 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180520/1526830731 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180521/1526870676 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180522/1526951457 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180523/1527042148 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180524/1527126099 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180524/1527139574 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180525/1527213239 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180525/1527235507 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180526/1527301904 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180527/1527395126 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180529/1527606338 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180530/1527650525 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180601/1527853486 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180602/1527961419 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180604/1528124480 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180607/1528386339 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180614/1528940243 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180618/1529341695

*6:Mentioned in Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131112/1384194411 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140103/1388727355 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161111/1478849737 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180205/1517756763