- 作者: 常光徹
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1999/08
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (2件) を見る
植野弘子「名前と変化」(in 常光徹編『妖怪変化 民俗学の冒険3』*1、pp. 161-189
「夫婦別姓」*2と同姓について。勿論、ここに謂う「姓」とは本来の意味における「姓」ではなく「名字」のこと。
敗戦後の民法改正の際に、草案段階の「妻は夫の氏を称するものとする」が、GHQから「男女平等に反する」というクレームがつき、現行民法では「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」(七五〇条)になった(p.187)。新民法の起草委員会では「夫婦別姓」は少数意見に止まり、GHQも夫婦「同姓」に異を唱えることはなかった。
明治時代になって新たに戸籍が作られ、全ての人が名字を持つようになると、結婚した女性の名字はどうなるのかという問題が出てきた。それ以前、名字を公称する武士・公家階層では、結婚した女性は実家の名字や氏名を名乗るものと考えられてきた。しかし、戸籍では妻は夫の戸に入っている。内務省は、結婚した女性の姓について太政官へ伺いを出すが、これに対して、明治九年に次のような太政官指令が出ている。「婦女人ニ嫁スルモ仍ホ所生ノ氏ヲ用イユヘキ事」、つまり「女性は嫁いでも生まれたところの氏(名字)を用いるべき」というのである。しかし、その後も、県から内務省に当てられた伺いには、庶民では慣習として妻が夫の名字を称することが多いが、指令のとおり実家の名字を称しなければならいのであろうかという内容のものがみられる。女性は結婚して夫の家に入り夫に従うものであるという当時の観念、また夫婦が共同生活を行っているという実態が、妻の名字は夫の名字にするのが当然ではないかという伺いとなって表れている。また、明治二三年(一八九〇年)に公布されたものの施行されなかった民法でも、妻は夫の家の氏を称すとされていた。お明治三一年(一八九八年)に公布・施行された明治民法は、「家」制度に立脚したものであり、結婚とは「妻ハ婚姻ニ因リテ夫ノ家ニ入ル」「入夫及ヒ婿養子ハ妻ノ家ニ入ル」(七八八条)ものであり、夫婦の姓については「戸主及ヒ家族ハ其家ノ氏ヲ称ス」(七四六条)と定められた。女性にとって結婚とは、夫の「家」に入籍して、自分の名字を夫の「家」の名字に変更するものとなった。女性の名前は一生同じではなく、変わるべきものと法的に規定されたのである。(pp.186-187)
*1:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130329/1364536639 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160923/1474597795 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180219/1519038297
*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060503/1146669098 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090419/1240150549 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090905/1252117392 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090918/1253249073 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090928/1254069607 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090930/1254274901 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091004/1254679093 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091123/1258950633 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091126/1259205760 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100104/1262603428 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100528/1275011275 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100621/1277091830 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100625/1277433569 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100713/1278999372 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100802/1280726806 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101209/1291899124 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131007/1381125070 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131023/1382498882 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131116/1384584256 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140930/1412049585 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150219/1424355486 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150424/1429891088 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160101/1451673079 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170102/1483336796 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170127/1485512464 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170310/1489118556 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171008/1507428500 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180211/1518366402