「去勢」など

高山義浩*1北朝鮮の医療で何がおきているのか 脱北した医師との対話から」http://www.huffingtonpost.jp/yoshihiro-takayama/north-korea-medical_a_23338753/


最近北朝鮮の医療事情に疑問を喚起するような出来事がけっこうある。例えば38度線を越えて韓国に帰順した北朝鮮兵士の体内から「大量の寄生虫*2が発見された事件*3。原因は不明だけど北朝鮮で昏睡状態に陥り故国に帰された直後に死亡してしまった米国人大学生で囚人のオットー・ワームビア氏*4
ここで高山氏が「対話」している李泰荕氏は「公立病院の院長」だったということだが、何時頃「脱北」したのか、今何処で何をしているのかを含む個人情報は明らかでない。
少し抜書きしてみる。


―― 北朝鮮感染症疫学に注目している。これは難民を受け入れる側として、きわめて重要な情報となる。ところが、その実態がよく見えないでいる。そもそも、北朝鮮について信頼できるレポートは存在するのか?*5

少なくとも、WHOなどが公表している北朝鮮ファクトシートを信じるべきではない。なぜなら、これらは北朝鮮政府が提供しているが、その統計資料が正しくないからだ。より多くの食糧と薬品の支援を受けようとすれば患者数を増やし、支援がないとみれば北朝鮮の印象が悪くなるので人為的に減らしている。国連が手にしているものは、偽った疫学情報に過ぎない。

私自身、国連やユニセフから支援物資を受けるために、偽った数字を提出していた。幼稚園児たち数十人を連れてきて、病院食堂で食べている映像を撮って、支援物資を消費していると報告したこともある。そもそも、北朝鮮において支援物資の透明性など期待するべきではない。

金正日の指示は、ただ、「ぼんやりと、有利なことだけ見せろ」というものだった。こうして、国家全体で国連まで騙していたんだ。


―― 感染症以外の保健医療統計も信用できないということか?

北朝鮮の統計、すなわち死亡率、出生率、年齢別人口構成、男女比率、子供や老人人口統計のすべてが機密情報である。これらを正確に知る者はいないはずだ。とりわけ、社会主義金正恩の偉大さに傷がつく恐れがあるものは、すべてが隠されてしまう。淋病、梅毒などの性感染症はその代表で、公式統計など発表されるはずがない。これは北朝鮮の保健医療を理解するうえでの基本だ。


―― 北朝鮮の医師の診療能力はどうか? 維持できていると思うか?

病院に薬もなく、患者は市場で薬を買って治療している。あるいは、自宅での民間療法で勝手に治療し、悪化してやっと医師のもとにやって来る。つまり、若い医師たちは、治療するタイミングもその結果も学ぶことができないでいる。

病院では、簡便な検査だけが行われている。たとえば、ウイルス性肝炎を疑っても血清検査を行うことはできず、GOT,GPTの上昇で推定しているのが実情だ。白血球数は測定できても分画は測れない。赤血球数もみれない。淋病、梅毒などの診断検査も行われていない。よって、医師は典型的な臨床症状で診断せざるをえない。

能力を維持できないのではなく、発揮できないでいるんだ。そして、もちろん失われていく。北朝鮮の医療から、科学的な診断と治療は完全に消えたと私は思う。


―― 法定感染症の患者について、適切に隔離は行われているのか?

北朝鮮では、感染症は治療が難しく、致死率が高いが、伝染経路の遮断は容易である。それは、独裁国家という特性から「命令」で患者を隔離できるからだ。感染経路を遮断することは、適切である以上に積極的に行われている。

たとえば、北朝鮮において治療することができないエイズ患者は、ある離島に完全隔離している。障害者は強制的に去勢している。人権無視の国家なので、党が指示すれば無条件で何でも実施することができる。感染症の予防にも党が介入している。

けっこうあっさりと語られているようだけど、これがいちばん衝撃的だった。過去においてはスカンディナヴィアの社会民主義国家においても日本においても、障碍者に対する不妊手術(断種)が行われていたことが告発されている*6。でも、「去勢」すなわち男性器の切除というのは聞いたことがないよ。
なお、李氏は「経済の崩壊」ということを幾度も語っているのだけど、これは21世紀になってからの核兵器を巡る経済制裁によって惹き起こされたものではなく、それ以前の1990年代に起こったことである。