宙吊りになること(メモ)

石戸諭*1「数千人が「失踪」していく国・日本 何が起きているのか?」https://www.buzzfeed.com/jp/satoruishido/hiroki-nakamori


『失踪の社会学』という著書を上梓した社会学者の中森弘樹氏へのインタヴューを中心とした記事。
神奈川県座間市の「9遺体」事件*2を契機に「失踪」という言葉が再度注目されているのだという。本当なの?
中森氏は、「失踪」を巡って、3種類の当事者、つまり「失踪」する人、「失踪」された家族、その家族を支える支援者。特に興味深かったのは、家族の情況。生きているのか死んでいるのかもわからないという中途半端な状況に投げ出されてしまう。


大切な人たちが生きているのか、死んでいるのかもわからない中途半端な状態を、残された家族は生きていく。

曖昧であることで、割り切れなさは増していく。

中森さんに対して、夫が失踪した家族は「潔く死んでいてほしい」という言葉を繰り返す。

一人暮らしの息子が失踪した家族ーー帰ってくる見込みは薄いと思っているーーは「行方不明っていうのはね、事実がないんですよ。まだ生きてるんじゃないかっていう」と語る。

「曖昧な喪失」に直面する家族のストレートな声だ。彼らにとって区切りはない。

安全に「失踪」できる場所はあるのかという問い;

ここから逃げる=失踪という選択肢を「無責任」という言葉で、批判していいのだろうか。

中森さんは、責任によって自殺を選ぶ人がいるなら、責任から個人を解放する可能性として「失踪」を捉え直すこともできる、と問う。


それは、座間市の事件とも通底するものだ。事件の発覚以降も、自殺をほのめかすSNSの書き込みは続く。

死にたい、と書き込むことを規制しても、それは問題が見えなくなるだけで、存在し続けるだろう。

《失踪について考えながら、家族や学校といったコミュニティーと関係がうまくいかないときに何が必要なのかを考えました。

それは「外部の第三者」ではないか、と思うのです。

コミュニティーから逃げ出す可能性を排除せず、受け止めて、安全に逃げ込める場……。そんな「逃げ場」があればいいと思うのです。

逃げ場にいる「外部の第三者」は家族や友人よりも日常的な関わりは薄い。だからこそ、支援できるし、話せることもあると思うのです。

それは失踪する家族とともに、新しい物語をつくっているNPOスタッフのように……。》

人は物語とともに生きている。周囲への責任感が強い人ほど、自分を追い詰める物語をつくり、それに規定されていく。

「消えてしまいたい」くらいの絶望を吐き出し、理解されてから始まることもある。年に数千人が消える社会が問いかけることはなにか。

日本の中世において「無縁」と呼ばれていたトポス(Cf. 網野善彦『無縁・公界・楽』*3 、或いは、より一般的に「アジール*4と呼ばれているトポス。多くの人がこれらのものを想起するだろう。また、寄せ場とかスラムといった空間。こういった空間は、「失踪」の果ての「アジール」と見做されることも多く、それに応じて、例えば過去の来歴についてとやかく言わないといったような会話の作法も確立されていた筈なのだが、今はどうなのか。
無縁・公界・楽―日本中世の自由と平和 (平凡社選書)

無縁・公界・楽―日本中世の自由と平和 (平凡社選書)

ところで、教主或いは教祖の「失踪」(お隠れ)をそのアイデンティティのコアに持つ宗教もある。シーア派或いはシーア派の流れであるドゥルーズ*5(Zachary Karabell People of the Book, pp.88-89)。
People of the Book

People of the Book

*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160122/1453481204 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160127/1453866712 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160325/1458875216 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160409/1460163099 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160415/1460648516 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160526/1464228316 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160603/1464959516 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161105/1478309427 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161211/1481482837 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170103/1483467085 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170516/1494962934 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171108/1510149623 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171111/1510404872 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171113/1510590081

*2:See eg. http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171104/1509722687 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171106/1509897202 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171111/1510404872

*3:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090619/1245441165 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20111223/1324606625 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140724/1406181296

*4:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050824 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050904 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060501/1146495355 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100220/1266666021 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100628/1277750059 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140724/1406181296 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141212/1418411319 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150727/1437924083

*5:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110502/1304357572