『形而上学叙説』(熊野純彦)

奥泉光熊野純彦「ここにしかない出会い  岩波文庫と私 2」(in 岩波文庫編集部編『岩波文庫と私』岩波書店、2017、pp.12-21)*1


熊野氏、聖トマスの『形而上学叙説』*2について語る;


(前略)この文庫そのものにちょっと思い入れがあってね、非常に長く絶版だったんですが、東大駒場の図書館にこの本があって、それを盗もうかと迷ったくらい。マニアックな話ですが、埴谷雄高の『死霊』のごく最初の部分に、旧制高校の寮監の「青虫」というあだ名の教師が、ドイツ語訳の『形而上学叙説』を寝しなに持って行ったという会話が交わされるんです。この本の名前は『死霊』で初めて知ったんだけれども、『形而上学叙説』というのは邦訳のための題名で、副題「有と本質とに就いて(De ente et essentia)」が原題です。本当は『神学大全』のある部分をじっくり読む方が面白いかもしれませんが、一冊でトマス・アクィナスのエッセンスをと言えばこれだと、いまでも思いますね。(p.20)
形而上学叙説―有と本質とに就いて (岩波文庫)

形而上学叙説―有と本質とに就いて (岩波文庫)