辞書の定義

伊吹早織*1広辞苑に書かれた「フェミニズム」を変えてほしい。 彼女たちが立ち上がった理由」https://www.buzzfeed.com/jp/saoriibuki/feminist-tomorrow-girls


アート・ユニット「明日少女隊」*2は今年の6月から「広辞苑を発行する岩波書店に対して、次回の改訂で「フェミニズム」と「フェミニスト」の項目を見直してほしいと求める署名活動」を開始している*3。「「フェミニズムは、女性が男性以上の権利を求めたり、ある性が別の性よりも優位に立つとしたりする考え方ではなく、全ての性の『平等』を願う思想」で、その理念が広辞苑の語釈には欠けていると考えるからだ」。
広辞苑』(第6版、2008)に曰く、


フェミニスト【feminist】(1)女性解放論者。女権拡張論者。(2)俗に、女に甘い男*4

フェミニズム【feminism】女性の社会的・政治的・法律的・性的な自己決定権を主張し、男性支配的な文明と社会を批判し組み替えようとする思想・運動。女性解放思想。女権拡張論。


そこに「平等」という言葉はなく、「女性解放」「女権拡張」「女に甘い男」というフレーズが並ぶ。

この説明では「あらゆる性の平等を目指すフェミニストの理念が明示されていないため、表現を変更してほしい」と、明日少女隊は主張している。

また、

「私たちは、フェミニズムは『いずれかの性が他の性よりも優位に立つ』といった考え方ではなく、だれもが平等で自分らしくハッピーに生きられる社会の実現のためにあると考えています」

「辞書は、高校生や大学生などの若い世代の人たちにとって、社会のことを理解する最初の手がかりのひとつです。私たちは、次世代に、このような誤解を招くようなフェミニズムの定義を残したくありません」

「性のあり方にかかわらず、全ての人が平等で自分らしく生きられる社会を実現するために、一緒にフェミニズムの定義を考え直しませんか?」

さすがにこの21世紀に「フェミニスト」=「女に甘い男」という意味で使っている人はいないだろう。せめて、かつては使われていたとか、既に死語であると明記すべきだろう。しかし、1980年代前半くらいまでの日本語環境においてはそれが主流の意味だったといえる。「女性の社会的・政治的・法律的・性的な自己決定権を主張し、男性支配的な文明と社会を批判し組み替えようとする思想・運動」は寧ろ「ウーマン・リブ」と呼ばれていた*5。「女権拡張論」とか「女権」主義というのは(マルクス主義的)左翼がフェミニズムを非難するときに使われていなかったか。階級を等閑視してジェンダーだの何だのに現を抜かしているみたいな。ただ、(私にとっては何時ものことだけど)正確な出典とかの記憶はない。
ところで、「フェミニズム」=男と闘う「男性嫌悪」の思想・運動みたいなイメージというのは日本或いは日本語的環境だけのことではない*6。何故なのか。あまり根拠はないけれど、推測してみる。私たちは信じているかどうかに関わりなく、或る種の〈勝ち抜き史観〉に馴染んでいる。例えば、俗流マルクス主義に従えば、かつてブルジョワジーが貴族を打倒し、(将来は)プロレタリアートブルジョワジーを打倒することになる、とか。そういう〈勝ち抜き史観〉を「フェミニズム」に投影して、非難したり怖れたりしているのでは?
ところで、「明日少女隊」のメンバーについて;

トミさんが「不平等」を経験したのは、高校卒業後の進路を決めたとき。アメリカの大学で物理を学びたいと両親に相談した際、思わぬ答えが返ってきた。

「そんなにいい大学を卒業しても、子どもが生まれるまで何年働けるかわからないでしょ、女の子なんだから大学でそんなに高い学費を払わなくてもいいじゃない」

さらにその数年後、弟がアメリカの大学に進学したいと言ったときに両親が何も言わずに応援したことも、心にわだかまりを残した。

弟にアメリカに行ってほしくないわけではない。弟には思い切りがんばってほしいから。

ただ、一つ疑問が残った。「どうしてお父さんとお母さんは、私のときはそういう気持ちになってくれなかったの?」と。

私とは出身階級が違うなと思った。でも、少なくとも私たちの世代というか、男女雇用機会均等法以前の世代では、これと同じような構図で「不平等」というのを実感している筈なのだ。例えば、自分より学業成績がよかった女子が四年制大学ではなく短大に進んだとか。