馬と熊

朝日新聞』の記事;


「森のくまさん」替え歌、訳詞者が販売差し止め求める

2017年1月18日21時59分

 童謡「森のくまさん」に独自の歌詞や旋律を追加し、CDにして無断で販売したとして、訳詞者で大阪府馬場祥弘さん(72)が18日、大手レコード会社「ユニバーサルミュージック」(東京都港区)とネタを作った芸人のパーマ大佐さん(23)*1に、販売差し止めや慰謝料300万円を求める抗議文を送った。

 会見した代理人の三木秀夫弁護士によると、馬場さんは米民謡を訳し、「あるひ もりの なか くまさんに であった」の歌詞で親しまれている訳詞を1976年までに著作権登録。パーマ大佐さんはこれに新たなメロディーと「ひとりぼっちの私を 強く抱きしめた熊」などのオリジナルの歌詞を追加。同社は昨年12月、CDとDVDにして発売した。

 歌詞カードには馬場さんが訳詞者として記載され、昨年末には同社から「日本音楽著作権協会JASRAC)経由で詞の使用許諾をいただきました」との書面とCDが届いたという。

 三木弁護士は「無断で歌詞を変えたものを売るのは著作者人格権を侵害する行為」と批判。同社側が2週間以内に対応しなければ訴訟も辞さない考えで、インターネット上にあるユーチューブなどの動画の削除も求めている。馬場さんは「詩の情感を大切にしているのに、全然違うものになっている」と話しているという。

 一方、取材に対し、同社は「(CDなどは)適切な手続きを踏まえ発売しております」、パーマ大佐さんが所属する太田プロダクションは「手続きはレコード会社に委ねています」とそれぞれコメントした。
http://www.asahi.com/articles/ASK1L51Q6K1LPTIL00L.html

See also


生田綾「『森のくまさん』替え歌、訳詞者が差し止め要求「犯罪・ギャンブル・膨らむ借金」」http://www.huffingtonpost.jp/2017/01/19/mori-no-kuma-san_n_14256378.html
「法廷闘争に発展しそうな『森のくまさん』の替え歌騒動」http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170119-00000006-reallive-ent
「〈速報〉「森のくまさん」問題、嘉門達夫が引っ張りだこ」http://www.asahi.com/and_M/interest/entertainment/Cfettp01701190018.html


代理人は三木秀夫! これだけでどてっとずっこけてしまう人も少なくないのでは? 小保方晴子代理人を務めた、あの間抜けそうなおっさん*2。そこから、三木秀夫のクライアント→かなり如何わしいアレな人というイメージが容易に合成されてしまうではないか。
さて、上に挙げた報道記事はどれも、「馬場祥弘」という人物が「森のくまさん」の日本語の歌詞を書いたということを自明な事実のように扱っているけれど、実際は決してそうではないようだ。Wikipediaの「森のくまさん」の項に曰く、


日本では、1972年8月-9月にNHKの音楽番組『みんなのうた』で紹介され広く知られるようになった。これはNHKの番組プロデューサー(当時)の後藤田純生がこの曲を見つけて玉木宏樹が編曲したものである。当時、日本語作詞者は不詳とされていたため、テロップでは作詞者の記載がなく、「アメリカ民謡」と編曲者の表記のみである。

諸般の事情により著作者表記が変遷している。

みんなのうた』で紹介された当時は、日本語作詞者は不詳とされていたため、「作詞・作曲:不明(アメリカ民謡)、編曲:玉木宏樹」とされていた。その後、馬場祥弘による「『森のくまさん』は自身が作詞・作曲した作品である」という主張が認められ、一時期は「作詞・作曲:馬場祥弘」としてJASRACに登録されたが、その後の調査で原曲となるアメリカ民謡の存在が判明し、「作詞・作曲:不明(アメリカ民謡)、日本語訳詞:馬場祥弘、編曲:玉木宏樹」となった。その一方で、『みんなのうた』編曲者の玉木宏樹は、日本語作詞者は不明であると最後まで主張し続けていた。原曲がスカウトソングであることから、世界的なスカウト交流の大会である第12回世界ジャンボリー(1967年にアメリカで開催)か第13回世界ジャンボリー(1971年に日本で開催)のいずれかの世界ジャンボリーのキャンプ地にて日本のスカウト経由で訳されて伝播した説がある。

みんなのうた』で歌っていたのはダークダックスで、それ以来「森の熊さん」*3というとダークダックスというイメージが強い。また、作曲者に関しては、日本語版のWikipediaでは不明としているが、英語版では作曲者はCarey Morganと Lee Davidだとしている*4。しかし、ドナドナ研究室「森のくまさんの謎」*5によると、その1919年に出版された楽譜は今歌われている「森の熊さん」とはメロディが全然違う。そのメロディは1855年まで遡ることができるという。まあ一時は歌詞どころかメロディまで「馬場祥弘」されてしまったわけだけど。
馬場祥弘」という人は1970年代前半までは、「小森豪人」という筆名でフォーク・ソング系のライターとして活動し、それ以降は主に謎々やクイズのライターとして活動していたようだ。そして、1990年代以降は、「馬場祥弘」名義で架空戦記小説を量産している*6。驚いたのは訳詞家としての仕事で、「森のくまさん」のほかに、「おお牧場はみどり」と「喜びの歌」(ベートーヴェン第九交響曲の歌詞。原詩はシラー)がJASRACに登録されているのだという。不思議なことに、Wikipediaで「おお牧場はみどり」や「歓喜の歌」の項に飛ぶと、そこには馬場のばの字もないのだった*7
まあ、小倉智昭*8の言っていることは面白いと思った;


小倉智昭氏、森のくまさんパロディー問題「印税は馬場さんに行くんじゃない?」

スポーツ報知 1/19(木) 10:06配信



 19日放送のフジテレビ系情報番組「とくダネ!」(月〜金曜・前8時)では、米国民謡が原曲の童謡「森のくまさん」の歌詞を無断で改変されたとして、日本語訳詞を手掛けた、作家で作詞家の馬場祥弘さん(72)が18日、お笑い芸人のパーマ大佐(23)とレコード会社のユニバーサルミュージック(東京都港区)に対し、CDやDVDの発売中止と慰謝料300万円などを求める通知書を送った件について取り上げた。

 問題となった「森のくまさん」のパロディー版はパーマ大佐が、童謡の歌詞の間に「クマと恋に落ちて警察から逃げる」という世界観の歌詞を加えたもの。馬場さんの代理人によると、昨年11月ごろ、日本音楽著作権協会JASRAC)を介し、ユニバーサル側から「歌詞に加筆する承諾を得たい」と連絡を受けたが拒否。しかし、12月に「許可をいただいた」として、CDのサンプルが届いた。歌詞カードには「訳詞」として馬場氏の名前が明記されていたという。

 替え歌で知られる歌手の嘉門達夫(57)への取材では「この部分をこういう風に替えてもいいですかと説明してOKが出たものだけリリースしている」というコメントを紹介。著作権者だけでなく、場合によってはアーティストに許可を取ることもあるという。

 メインキャスターを務める小倉智昭氏(69)は「非常に難しい問題。頭とお尻にメロディーと詞は使っているけど、間は完全に違っている曲」とポツリ。2006年のNHK紅白歌合戦で、川内康範氏が作詞した「おふくろさん」の冒頭に歌手の森進一がセリフを追加。川内氏が「自分の作った歌じゃない」と森に抗議し、川内氏の死去後に、和解した件に触れ「おふくろさんとはちょっと違う感じがする」と感想を述べた*9

 ただ、ピアニストの母と音楽評論家の父を持つパーマ大佐の才能は評価しているようで「歌もいいし、面白いし、音楽性は高い。世に出したい人はいっぱいいるだろうね。作詞のところにパーマ大佐の名前がないのは面白い。てことは作詞の印税は馬場さんのところに行くんじゃない? 本人の気持ちは傷つけるけど、経済的にはプラスかもしれない」とコメントした。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170119-00000035-sph-ent

「替歌」を巡っては、片桐ユズル「替歌こそ本質なのだ」*10をここでもマークしておきたい。