「十字路」(メモ)

二十世紀を動かした思想家たち (新潮選書)

二十世紀を動かした思想家たち (新潮選書)

ギ・ソルマン『二十世紀を動かした思想家たち』(秋山康男訳、1990)の原書は1989年か。
曰く、


二十世紀の真の思想家の典型は、すでに老人であり、失われた文明の生き残り、もっと一般的に言えば、その生地から離れて他の土地に住みついた人である。かつてはユダヤ人であったが、いまはそうでない人が多い。一つのものしか崇拝しない。それは知識のための知識崇拝である。物理学者、生物学者、哲学者、数学者を含め典型的な真の思想家は、彼の研究が研究以外の目的を持たないと私に言った。
(略)その多くはウィーン生まれで米国に移住しているのは何故だろうか。ブルーノ・ベテルハイムの言葉を借りれば、「本当に考えるには、冒険精神が、体制順応から抜け出すため、画一的秩序とぶつかる必要があるのだ」ということである*1
思想を育むための好適な場所があるのだ。二十世紀初頭のウィーンは、文明、宗教、諸言語の十字路で、歴史上、数少ないとはいえ、思想が育まれた場所の一つであった。アテネラテン語時代のパリ、フィレンツェ、オックスフォード、ハーバードと同様である。
今度の取材で発見したことは、場所が、思想には不可欠であるということであった。(pp.16-17)
20世紀初頭のウィーンについては例えばAndy Walker “1913: When Hitler, Trotsky, Tito, Freud and Stalin all lived in the same place”*2も参照されたい。また、現代の長安としての米国ということについては、http://d.hatena.ne.jp/michikaifu/20080925/1222364311 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081011/1223690774 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081207/1228630321 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161115/1479228554とかを。
次の一節も写しておこう;

その昔、普遍化への十字路の役を果たしたヨーロッパの僧院や大学はもはや今世紀の流れにうまく適応できなくなった。アメリカの大きな大学であるエール、バークレー、ハーバード、スタンフォードが中世ヨーロッパの僧院建築を模倣していることは単なる偶然ではない。若干の形式というものは確かに、精神の昂揚に役立つ。僧院の方形広場は今キャンパスとなった。ヨーロッパでは、わずかにオクスフォードとケンブリッジが、その普遍性とコスモポリタン主義を維持している。しかし、フランスではルネ・トムが働くビュール・シュール・イベットの基礎研究所ですら、スタンフォードに及ばない……。(p.17)

*1:ベテルハイムは本書第5章「自由には保証がいる」で採り上げられている。

*2:http://www.bbc.co.uk/news/magazine-21859771 Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130418/1366252254 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130421/1366475804