フォーク・ダンスとしての?

川本三郎*1「合唱の楽しさ」『コモ・レ・バ?』(CONEX ECO -Friend)29、2016年秋、pp.40-43


「カラオケのない時代、若者や女性たちはよく合唱を楽しんだ」。
ここで採り上げるのは何故か「合唱」ではなく「フォークダンス」についての話。小林正樹の監督デビュー作、「鎌倉に住む作家(北竜二)の家族を描いたホームドラマ」(p.41)である『息子の青春』。曰く、


息子(石濱朗)は高校生。そろそろ女の子が気になる思春期にあり、心優しい母親(三宅邦子)は、息子のために誕生会を開く。男の子たちだけでなく、女の子たちも招く。
バースデーケーキを囲んで、高校生たちはさっそく歌を歌う。
〽ハッピーバースデー、トゥユー
みんなが楽しそうなので、台所にいる母親も、書斎にいる父親も思わずつられて、〽ハッピーバースデー。
カラオケがなかった時代の牧歌的風景になっている。
そのあと、男の子たちと女の子たちは二手に別れてフォークソングを始める。歌う歌は、
〽あの娘の黄色いリボン
ジョン・フォード監督の西部劇『黄色いリボン』(49年)の主題歌(アメリカのフォークソングが原曲)。当時、日本でも大ヒットした。(p.41)
『息子の青春』という映画は未見。『黄色いリボン』は勿論観たことがある。映画を観たことがないという人でも、或る年齢以上なら、映画『黄色いリボン』は観たことがなくても、或る年齢以上なら、主題歌を口ずさむことができる。でも、「あの娘の黄色いリボン」でフォーク・ダンスというのは全然知らなかったというか、考えもつかなかった。本当に踊っていたの? 
黄色いリボン [DVD] FRT-076

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「誕生会が盛んになったのは戦後」のことだという。ところで、「ハッピー・バースデイ」を歌うのは別に「カラオケがなかった時代の牧歌的風景」でもなんでもないよ。「ハッピー・バースデイ」を歌って、バースデイ・ケーキの蠟燭を吹き消すというのは今でも誕生パーティの式次第としてはほぼ定番として定着しているのでは? また、川本は「合唱」(コーラス)と斉唱(ユニゾン)の区別をしていないようだ。みんなで歌うことを「合唱」として一括りにしているようだ。だって、「ハッピー・バースデイ」を歌うとき、あなたはソプラノ、君はテノール、お前はアルトというふうに、パートに割り振って、ハモったりしないでしょ。
映画と「合唱」を巡っては、


北小路隆志*2「「大島渚追悼――「罵り合い」の「論理」と「ポエジー」」『intoxicate』102、2013、pp.56-61


もマークしておく。
なお、『コモ・レ・バ?』29号には、このほかにも


なかにし礼北原三枝と石原まき子」(pp.14-15)
米谷紳之介「映画監督小林正樹の信念」(pp.16-24)


という記事も載っている。