Color Talk(Paul Auster)

オラクル・ナイト (新潮文庫)

オラクル・ナイト (新潮文庫)

ポール・オースター『オラクル・ナイト』*1からの抜き書き。
「私」(「シドニー・オア」)が妻「グレース」と年上の友人ジョン・トラウズを訪ねた*2帰りのタクシーの中での会話から;


(前略)
「今夜、なかなか興味深い発見をしたよ」と私は言った。
「いい発見だといいけど」
「ジョンと僕は、同じ情熱を共有している」
「へえ?」
「僕たちは二人とも青という色に恋しているとわかったんだ。特に、かつてポルトガルで製造されていた、もはや手に入らない青いノートに」
「青はいい色よ。とても穏やかで、落ち着いていて。心にしっくりなじむ色よ。私も大好きだわ。気をつけないと、装幀していて全部の表紙に使ってしまいそうなくらいよ*3
「色ってほんとに、そんなふうに気持ちを表わしているのかな?」
「もちろんよ」
「人格的なことは?」
「どんなふうに?」
「黄色は臆病のしるし。白は純粋。黒は悪。緑は無垢」
「緑は嫉妬」
「うん、それもある。だけど青は何を伝えるのかな?」
「どうかしらね。希望、かしら」
「それと悲しみ。ブルーな気分(I'm feeling blue)、とか。あるいは、憂鬱を抱えて(I've got the blues)」
「強き信念(true blue)もあるわよ」
「うん、そのとおり。忠誠の青」
「でも赤は情熱。これは誰も異論がない」
「ビッグ・レッド・マシーン*4社会主義の赤い旗」
「降伏の白旗」
無政府主義の黒旗。緑の党
「でも赤は愛と憎しみでもある。戦争の赤」
「戦に行くのは軍旗を運ぶ(carry the colors)。そう言うんだよね?」
「たしか」
(後略)(pp.69-70)