角田光代『ロック母』

ロック母 (講談社文庫)

ロック母 (講談社文庫)

角田光代*1の短篇集『ロック母』を数日前に読了する。


ゆうべの神様
緑の鼠の糞
爆竹夜
カノジョ
ロック母
父のボール
イリの結婚式


あとがき
黒い本 『ロック母』解説(司修

1992年の「ゆうべの神様」から2007年の「イリの結婚式」まで。単行本初収録だという「ゆうべの神様」は中篇というか英語で謂うところのnovellaだといえるだろう。
角田光代の作品を〈ホーム〉を描いたものと〈オフショア(旅先)〉を描いたものに分類するということも可能だろう。この本でいえば、「緑の鼠の糞」、「爆竹夜」、「イリの結婚式」は〈オフショア〉小説であり、「ゆうべの神様」、「ロック母」、「父のボール」は〈ホーム〉小説だといえる。「ゆうべの神様」は〈ホーム〉を捨て、〈オフショア〉に移行する物語であり、、「ロック母」と「父のポール」は何らかの事故(意外)を契機として〈オフショア〉から〈ホーム〉に帰還する物語。「カノジョ」のトポスは〈オフショア〉でもなく〈ホーム〉でもないというか、〈オフショア〉でもあり〈ホーム〉でもある。本書に収録されたものの中では、この作品はエクリチュールの密度が最も濃い。また、印象深いのは「ゆうべの神様」と「父のボール」における怪物的な「父」の形象。「ゆうべの神様」においては、「母」も怪物性において「父」と拮抗している。また、「ロック母」では「父」と「母」の位置が逆転している。