2日が過ぎて

承前*1

ISISによる日本人拉致・殺害脅迫事件についての続報はわからない。
これに関して、


これねえ、日本政府がどんな対応をしてもいい解決はできない、八方ふさがりの状況ですよね。まさかテロリストに屈して法外な身代金を払えるわけがないし(金額がもっと少なかったとしても、ここで国策を曲げたら日本はテロ支援国家の烙印を捺され、国際社会から孤立する)、かといって黙殺したら、ISは日本を明確な敵国と宣言し、さらなるテロも発生するでしょう。もちろん、映画みたいな救出作戦ができるはずもない。安倍総理は「テロと戦う」と宣言していましたが、もう戦争は始まってしまっているということなんでしょう。無傷で済ませられる道はもうないんです。わが世の春を謳歌していた第二次安倍政権にとって、最大の危機といえるでしょう。お腹の具合が本気で心配なところです。
http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20150120
というwashburn氏の認識はまさにその通りだと思う。ただ、ヨーロッパ諸国は(表沙汰にはしないけれど)裏では身代金を払っているということはあるわけですけど。勿論、ISISに屈服して身代金を払うか、湯川遥菜、後藤健二の両氏の生命をISISのナイフに委ねるかという二者択一ではない途を、困難ではあっても探っていかなければいけないのだろうけど、今為すべきことは、〈延長戦〉に持ち込むこと、西谷文和という方がいうように、「72時間を引き延ばすこと」、「時間を稼ぐこと」なのだろう*2
また、ISISと交渉してもいいという人も登場している。常岡浩介氏*3。『弁護士ドットコム』の記事に曰く、

常岡さんは21日、SNSサイト「Google+」で、「邦人の人命救助のためなら外務省にも、警察にも喜んで協力します」として、次のようなメッセージを公開した。


「日本政府がオマル・グラバ司令官の身柄の安全を保証し、私とハサン先生*4を交渉人として認めてくれれば、私たちは湯川さん、後藤さんの解放をイスラム国に直接、訴えることができます。日本の拠出する2億ドルはあくまで人道支援目的に限定されたもので、イスラム国を軍事攻撃するためのものではないと説明できます。さらに、イスラム国側が安倍総理の対中東政策をもって、日本人人質を処刑するのは不適切だと説明します」


また、イスラム国の司令官から昨年聞いた話として、次のように記している。

「オマル・グラバ司令官の説明では、去年の8月から10月にかけて、イスラム国は湯川さんを処刑したり、身代金を要求する意志がないことを明言していました。今回、その方針が変わった理由を問い質します」
(「「私はイスラム国と交渉ができます」ジャーナリスト常岡浩介さんがネットで表明」http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150121-00002577-bengocom-soci

さて、washburn氏曰く、「このテロの本質は、たまたまシリアにいた日本人ふたりが標的になったのではなく、日本政府が打ち出した外交方針そのものが攻撃の対象になっている、ってことですからね」。結果によっては、日本人は或る種の覚悟を決めなければいけないということになるだろう。そうだとしても、覚悟の前提としての、議論を尽くしての或る種の(或る程度の)コンセンサスの達成ということにはほど遠いような気がする。例えば、ブレイディみかこ*5の「英国が身代金を払わない理由。」というエッセイ*6はそうした議論の叩き台として広く読まれるべきだと思う。曰く、


UKで議論されていたのは、「自ら危険地域に行った人の家族が責任を取って身代金を払ったのなら別に問題ないじゃん」というタイプの自己責任論ではない。民間が身代金を払うことを犯罪にしてでもテロ組織の資金源を断ち、多数の他者を守るべきではないかという、個人か、共同体か。のディベートなのである。

「難しい問題だ」と英国人たちが口を揃えて言うのはそのせいだ。

誘拐と身代金の問題となると、英国人はより大きな共同体にとって「何が良いことか」という問題と、個人の命の間でせめぎ合い、民間としては身代金を払える窓口を残しながらも(これはこれで「富める者や大企業の社員だけが助かるのか」という議論を呼んでいるが)、国家としては共同体に対する責任のほうを重視してきたからだ。