同じ罪?

R25』の記事;


卒論に絵文字&完コピで准教授涙目

2015.01.17

1月になり、大学4年生にとっては、卒業論文を提出する時期が到来。そんななか、高千穂大学の准教授が、提出された論文が“他大学の学生の論文が完コピされていた”とツイッターで嘆き、ネット上で話題となっている。

ツイッター上で新年早々つぶやいていたのは、同大学の経営学部で組織戦略論を専門とする小林康一准教授。提出された卒論を読み進めるなか、

「っていうか、卒論に絵文字を使うな」

とイマドキの学生に呆れるツイートをしていた。だが、その後

「他大学の学生の論文完コピとはいい度胸してんじゃねぇか。知ってる大学だし、なんなら本人お呼びして目の前で弁明してもらおうかな」
「行為自体も犯罪だけど、それをなんでこんなわかりやすくやっちゃうかなぁ・・・というか、これはテロか?自爆テロなのか?」

と、相当高い衝撃度の卒論に直面したことを告白。そして、

「卒論読みながら引用文献みたりキーワード検索かけてコピペしていないか確認する作業してて、なんか涙出てきた。こんな情けないことするために、この仕事やってんのか。俺。たぶん指導した自分の失敗なんだろうなぁ。エラそうにゼミなんかやってて、育てたのが論文泥棒か。もう消えてなくなりたい」

と、反省しつつ自己嫌悪に陥っていた。この“卒論完コピ”はネットで大きな反響を呼んだ。ツイッターには

「卒論完コピはねえわ…」
「(もし自分の卒論を完コピされたら)どんだけ!!時間と手間をかけて!!精神と体力を消耗させたと!!思ってんだ!!って」
「ばれないと思ったのかなあ…ていうかいちいちこれを調べなきゃなんない先生も大変だよね…」
「苦労お察しします( ・´ω`・ ) なにかと大変なご職業だとおもいますが頑張ってください!」

など、“それはない”という声があがったほか、指導する側に対する同情の声も寄せられた。

該当卒論は、「キレて返却した」そうだが、小林准教授は「コピペ」することは“思考もコピペする”ことになると指摘。現状改善のため「ゼミってなにか」について学生たちとディスカッションを始めたことを報告している。
http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/jikenbo_detail/?id=20150117-00040128-r25

小林先生*1の気持ちは察するに余りあるけど、多分こいつは今回が〈初犯〉ということではないのでは? また、そんなに悪いことをしているという認識もなかった可能性もある。ちょっと説教を食らって済むくらいな。だって、世間というか(少なくとも)日本社会は「完コピ」を是認している。勿論いいことだとは思っていないけれど、重大な悪事としては認識していない。そう思った根拠は、先ず上掲の記事のタイトル。「卒論に絵文字&完コピで准教授涙目」。「絵文字」と「完コピ」は「&」という等位接続詞で繋がれている。同等な存在とされているのだ。この記事に関わったライターや編輯者は、たんにレトリック上の趣味の問題である「絵文字」とアカデミックな倫理の根幹に関わる「完コピ」を同列の問題として扱っているのだ。また、メジャーな週刊誌に小学生向け「宿題代行業者」を肯定的に紹介する記事が堂々と掲載されている*2。こういうふうな環境に棲息していれば、朱に交われば赤くなるというか、卒論で「完コピ」もまあいいんじゃないという感じになってしまうというのも、plausibleな話ではある。さらにいえば、重大な責任は中等教育にある*3。最近、カフェでカリフォルニア州で臨床心理学者をしている中国人女性が米国のハイスクールの校則について書いている文章を斜め読みしていた。米国におけるacademic honesty*4に関する校則は厳しく、特に多くの亜細亜系移民はその厳しさに驚愕するという。尤も、カンニング剽窃レポートで退学処分になるということはないが。ただ、3回やれば大学進学の際の書類に書き込まれ、不正の事実は大学側に伝達される。日本では、高校生に対して、やれ茶髪にするなとか、やれセックスするなとか、やれ酒を飲むなとか、余計な説教をかます大人は少なくなくとも、カンニング剽窃レポートをするなという大人の声は小さい。それって、盗作倒錯していないだろうか。高千穂大学の「完コピ」君もそのような社会の犠牲者であるいえなくもないのだ。
さて、上掲の記事だが、「関連記事」として、2011年3月2日付けの「「卒論コピペ」「隣をチラリ」不正報告する学生たち」という記事がリンクされている*5京都大学の入試における「ヤフー知恵袋」を使った「カンニング」事件が話題になった頃*6。そして勿論、東日本大震災の直前。少しコピペしてみる;

まず、2月24日に登場したのは、「卒論をコピペ(コピー&ペースト)した」とブログで報告した女子学生。この学生はブログで「なおきの卒論をいただきっ」「10分で完成した24枚の完璧な卒論」「人生て楽だぜィ」(原文ママ)など、他人の卒論を流用したことをブログで告白し、これがネット上にさらされた。

一方、26日には、「東工大東京工業大学)の入試でカンニングをした」とブログに書いた高校生が登場した。この学生は「隣のひとの答えを見て自分の答えを直す(人のふり見て我がふり直せ)ww 完璧だ」と告白。これをネット住民に発見され、こちらもやはり個人情報そのほかをさらされた。

「24枚」って、400字詰め原稿用紙換算なら、ペラすぎるだろうと思った。文系の卒論なら、最低で50枚でしょと思った。また、ここでも、2015年の高千穂大学事件と同様に、自らの不正を堂々と告白・自慢する心理が問題になっている。所謂「バカッター」*7も含めて、昔ブルクハルトが『伊太利ルネッサンスの文化』*8で記述していたルネッサンス的自我というのを思い出したが、あくまでも思いつきのみ。2011年3月2日だが、このほぼ2週間後、大震災の直後でもある3月15日に、後に剽窃疑惑が発覚する論文*9によって、小保方晴子が博士号を得ているのだった。3月2日といえば、既に口頭試問も終わっていた筈だが、小保方さん、ネットに接続して、こういったネタを読んで、はらはらどきどきしていなかったか。
イタリア・ルネサンスの文化 上   中公文庫 D 12-1

イタリア・ルネサンスの文化 上 中公文庫 D 12-1