ナショナリズム(Takemitsu/Sylvian)

武満徹対談選―仕事の夢 夢の仕事 (ちくま学芸文庫)

武満徹対談選―仕事の夢 夢の仕事 (ちくま学芸文庫)

武満徹 対談選』(小沼純一編)*1から。
デヴィッド・シルヴィアン*2との対談*3から;


武満 (前略)たしかに国際化と言うか、実際地球は狭くなってきているわけで、一つの惑星としてのグローバルな立場で人間は物事を考えなければならないところまで来ているけれど、実際には、いま私たちが、これからおそれなければならないのはナショナリズムです。それは目に見えない形で、悪魔的にだんだん姿をあらわしてくるだろう。そのときに、僕らがそれをなんとか食い止めるのは、決して音楽というメディアだけではないけれど、たとえば音楽というメディアを通じてでも、何かお互いに親しく話し合う場を、それからその場の土壌をほんとにいろいろな人間の知恵で豊かにしていくことからだと思うんです。それにはもちろんいろいろな試行錯誤を繰り返すかもしれない。でも、ナショナリズムがもたらす化け物よりは、もっとユーモアのある楽しい試行錯誤だろうと思いますね。
シルヴィアン 僕もそう思います。だからこそ、僕たちは内面的な自己、内面的な存在ということをもっと考えなければいけないと思うんです。もしそれをしなければ、私たちはもっとナショナリズムとか、愛国主義とか、そういった方向に行くと思います。こういうナショナリズムというものは、人間が不安だから、何かアイデンティティを求めて出てくるものだと思うんです。そして自分が何であるかということを定義するために、表面的な荷物のようなものとしてそれを持ちたがるんですね。しかし、自分の内面に安心と愛と責任というものを感じれば、そういった荷物は必要がないはずだと思います。その責任というものもだれかから与えられたものではなくて、みずからもつ責任、政治制度や国に対する責任ではなく、人類に対する責任、人類に対する愛とでもいうか。芸術というのは愛の延長にすぎないと思うし、芸術は愛の一つの行為だと考えていますので、そういうことを追求している人たちは自然に集まってきて、そして協力することができると考えています。(pp.358-359)