江利チエミを語る寺山修司

武満徹対談選―仕事の夢 夢の仕事 (ちくま学芸文庫)

武満徹対談選―仕事の夢 夢の仕事 (ちくま学芸文庫)

武満徹 対談選』*1から。
寺山修司*2との対談*3。寺山にとって、「ジャズ」とは先ず江利チエミ*4だった;


(前略)モダン・ジャズなんてのは、広い意味の「ジャズ」にとってほんのサブ・カルチュアにすぎないんだね。「ジャズ」そのものとの出会いを、もっとさかのぼって考えると、それは終戦のあの喧噪や闇市マーケットのアメリカ兵の笑い声だったという気もするしね。昭和二十三年頃、青森の国際劇場に江利チエミがやって来て、『Come on a my House』を。ものすごい甲高い声で歌った。「うちへおいでよ、わたしのおうちへ、あなたにあげましょキャンディ……」ってやつ。あれをきいて、僕は江利チエミってのは凄い人だなと思って見てた。あの頃、「マイハウス」なんてもってる奴はいなかったからね。皆、間借りだった。だから、ジャズは焼跡を通りすぎる福音というか、何となく「うらやましい」彼岸のものだった。とても音楽なんかじゃなかった。それと軽井沢で聴いたMJQ*5の、いわゆる西洋音楽の影響を受けた、サードストリーム・スタイルのジャズ*6とを同じ言葉で語ることはできないって気がする。(後略)(pp.227-228)
さらに、

武満 (前略)
僕も、寺山さんとおんなじで、江利チエミの歌った『カモンナ・マイ・ハウス』なんてのはおもしろかった。『カモンナ・マイ・ハウス』をつくった人たちはアルメニア人ですよね。だから カモンナ・マイ・ハウスっていうのはアルメニア訛りなんだね。あの詩を書いた人は、劇作家で小説も書く、えーと、なんていったっけ、『My Heart's in the Highlands』なんて芝居をつくった人。『男』なんていう小説が出てる、日本じゃ……。
寺山 ああ、ウィリアム・サローヤンだ。
武満 そうそう、サローヤンがつくった歌。
寺山 そう言われると、なるほどと思うね。
武満 江利チエミは素晴らしいですよ、なにしろウィリアム・サローヤンの歌を日本で最初に紹介した人なんだから。(笑)
(後略)(pp.228-229)
さらに後ろの方で、武満は、

(前略)江利チエミが『カモンナ・マイ・ハウス』を歌った頃に、米山正夫*7の『リンゴ追分』や、それから、『お母さん』っていう非常に明るい流行歌があったんだよ。あれは僕にとってはひとつのかなりすごいジャズだったね。(p.246)
とも言っている。
何よりも、寺山修司の物真似をしているタモリではなく寺山本人がこのように熱くジャズを語っているのはちょっと想像がつかなかったのだ。

*1:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141224/1419392127

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070320/1174383864 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070422/1177229571 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070612/1181612322 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070705/1183661994 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070820/1187624219 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080715/1216139452 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080910/1221017660 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081207/1228590174 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090623/1245762377 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090625/1245935580 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101126/1290795234 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110308/1299514074 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110603/1307072747 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110829/1314543718 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110913/1315843750 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120113/1326458395 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130403/1365006904 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141004/1412441491

*3:初出は『ユリイカ』1976年1月号。

*4:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141118/1416325456 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141123/1416673882

*5:See eg. http://koti.mbnet.fi/ohuuska/index.html http://en.wikipedia.org/wiki/Modern_Jazz_Quartet http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%80%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%83%E3%83%88

*6:「十五年位前に谷川俊太郎の北軽井沢の山荘でMJQのレコードをきいた。ロジェ・バディムの『大運河』のサントラ盤だった」(p.227)。

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*7:See http://yoneyama-masao.jp/index.html http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B1%B3%E5%B1%B1%E6%AD%A3%E5%A4%AB