承前*1
松島利行「不器用に戦後生き抜いた」『毎日新聞』2014年11月20日夕刊
最初の部分をメモ。
健さんは無口な人ではない。むしろ話好きだったかもしれない。中学・高校時代は英会話部とボクシング部をつくって占領軍将校の子弟と交遊し、映画を見まくった。仲間とアメリカに密航しようと試みもした。貿易商を夢見て明治大に学び、進学で世話になった恩師の友人が顧問をしている相撲部に入ったものの、上意下達の人間関係になじめず、酒乱で野放図に暴れたりもしたが、好きな映画に目を向けて恋をして結婚を考える。この話で健さんは彼女がどんな人か語りたがらなかったけれども、松竹大船撮影所でエキストラのバイトをしていて知り合った若い女優だった。それが父親の逆鱗に触れて結婚は許されず、故郷を捨てて再び上京して映画の道を求め、小田剛一は「高倉健」と改めて東映第2期ニューフェイスとなる。
やくざ任侠路線でスターとなったからか体育会系の硬派のイメージで語られるが、ジャズシンガーで映画でも人気だった江利チエミとの結婚にいたるまで、健さんの青春はいわゆる「戦後民主主義」の中にあっただろう。
「網走番外地」の冒頭で流れる歌声には、演歌ともいささか異なる情を切り捨てた響きがあってしびれた。健さんの出自は、北九州の炭坑と港湾労働者を仕切る遠賀川の川筋者の、作家火野葦平にも通ずる荒くれ者の暴力と仁義の世界にある。東映映画での裏切りや理不尽に耐えて死地に赴くアウトローの男の意地が、1960年代に始まる若い世代の反乱に呼応する。彼らの闘争や恋の挫折の怨念もスクリーンで昇華した。
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新浪娯楽「張藝謀憶高倉健:士之徳操」http://www.yangtse.com/gd/2014-11-19/360622.html
但し、これは今回の高倉健逝去に伴って語られた言葉ではなく、2009年に張藝謀にインタヴューした際にその主題とは無関係だったためにカットされた部分が今回の事態によって初めて日の目を見たもの。