「100日裁判」(by 杉浦由美子)

杉浦由美子*1「死刑法廷 木嶋佳苗 セックスと嘘と永久脱毛」http://gekkan.bunshun.jp/articles/-/359


結婚を罠に3人の男性を練炭自殺に見せかけて殺害したとして第一審で死刑判決を受けた木嶋佳苗の裁判傍聴記。
杉浦さんは裁判に通い詰めた動機を、


私がこの裁判の傍聴に行ったのは、一個人としての好奇心からである。木嶋佳苗は高校卒業後の1993年に上京している。私はその年に大学を卒業して社会人になった。バブルの余韻が残り、家賃や物価が高かった当時、東京で地方出身の若い女性が自活することは楽なことではなかった。だが、私は犯罪者にならず、木嶋は犯罪に手を染めていった。その違いはなんなのだろうか、と考えるうちにこの目で木嶋を見てみたいと思い立ったのだ。
と語っている。
興味深かった箇所を抜き書きしておく。
先ず木嶋佳苗のルックスについて;

木嶋の姿を実際に目の当たりにすると、たしかに身体つきは太めだが、約155センチと身長は低く、足首はほっそりしている。ちなみにネットオークションで15号のワンピース(=3Lサイズ)や「D95」(=アンダーバストのサイズが95センチ)のブラジャーを木嶋が落札したと思われる記録が残っているが、日本人女性のアンダーバストの平均が65〜75センチであることを考えると、木嶋は生来、骨格が特別に太いのか、身長のわりに存在感のある身体をしている。

 さて、顔立ちだが、一言でいえば愛嬌がない。“美人顔”の特徴は口角があがっていることだが、木嶋は対照的に口が見事に「への字」に曲がっている。骨格といい、顔立ちといい、生来持つものが社会一般の「美」的感覚からすると、不利な条件が揃っている。


傍聴に来ていた女性記者たちはみな、そんな木嶋に好印象をもっていた。もし、自分が住んでいるマンションの隣の部屋に木嶋が引っ越してきたら、私も「あら、地味で感じのよい人ね」と安心しただろう。

 なぜ、女たちは木嶋に好印象を持ったのか。それは、木嶋の“不美人”な容姿が他者に優越感を与えるからだ。人は優秀な他者に脅威を感じる一方で、自分よりも劣る人間に安堵感を持つ。木嶋は、自分の容姿が他人に優越感と安心感を与えると知り尽くしていた。木嶋はブスと言われても平気で、逮捕前も普段からメイクをしなかったと法廷で証言している。彼女はブスが武器になると知っていたのだ。

そうなのか<女性の皆様

いま流行りの婚活パーティーとは違って、昔ながらのある会員制結婚相談所は、30代後半以上の理系エリート男性が多く登録しているという。恋愛に奥手な彼らには「美人が自分を選んでくれるわけがない」「美人は家庭的ではない」という先入観があり、「ぽっちゃりした不美人」を選ぶ。また“女性慣れ”していないため、女性に対してお金を使うことにも、抵抗がないと業界関係者は語る。

 あえてブスを選ぶ男性たちがいるということ、つまり「ブス市場」があることを木嶋は知っていて、そこにターゲットを絞ったのではないか。実際、被害者のひとりである大出さんは婚活サイトのプロフィールに「地味な女性が好き」と書いていたというが、そんな大出さんに対し、

〈私は外見には自信はありませんが、今まで真面目に生きてきたということに関しては自信があります。内面は磨いてきました。(中略)男性ならだれでもいいとは思っていません〉

 と、木嶋はメールを送っている。

「金」目当てでもなかったという。

今回の事件報道で「結局、女は男を金で選ぶのか」という指摘もあったが、少なくとも木嶋は金で男を選べなかった、ということだ。

 金目当てなら、寺田さんか大出さんのどちらかと結婚すればよかったはずだ。彼らは真面目な正社員で浪費癖もなかった。家事を完璧にこなす木嶋であれば、よい妻になれたかもしれない。しかし、それは木嶋が求めるものではなかった。木嶋は男性に何を望んでいたのか。そこに木嶋が犯罪者に身を落としていった理由があるように思えてならない。

ということで、杉浦さんの当初の謎は依然として謎のままであることが最後に明かされている。「木嶋は男性に何を望んでいたのか」。裁判における彼女の言葉によると、そのひとつは「オーガズム」だということになる。「私はセックスにおいて長時間快感を持続させながら、トランス状態でオーガズムを感じてトリップすることを求めていました」。この事件が英語圏でどのように報道されているのかは知らないが、Monique Roffeyさん*2ならどうコメントするだろうか。
この傍聴記に言及したNesskoさんのエントリー*3では 木嶋佳苗とは対極的な女性として野村沙知代の名前が挙げられている。そういえば、木嶋佳苗が20代だった1990年代後半というのはメディアによる〈サッチー・バッシング〉の時代でもあったのだった。


柳川悠二「木嶋佳苗の自作自演に「ゲロ吐きそうになった」と佐野眞一氏」http://www.news-postseven.com/archives/20120620_119204.html


木嶋佳苗事件について『別海から来た女』という本*4を書いた佐野眞一*5へのインタヴュー。こちらでは木嶋佳苗の生い立ち、また彼女に翻弄された男たちの側の事情も描かれているようだ。
男たちの事情というと、杉浦さんも指摘していた「恋愛弱者」或いは〈非モテ〉の問題とも絡んでくるのだろうか。
最近「元タカラジェンヌ」が「出会い系サイト」で知り合った男性を恐喝するという事件があった。勿論被害者の55歳の「タクシー運転手」が「恋愛弱者」なのかどうかはわからない。


タカラジェンヌ、妊娠と言いがかり…組員共謀

 出会い系サイトで知り合った男性から現金を脅し取ろうとしたとして、警視庁滝野川署は3日、住吉会暴力団組員の煙山祥裕(けむりやまよしひろ)(55)(覚醒剤取締法違反事件で収監中)と職業不詳金林(かなばやし)真貴(44)(東京都世田谷区池尻)の両容疑者を恐喝未遂容疑で逮捕した。

 宝塚歌劇団によると、金林容疑者は「浜風愛」の芸名で1987〜90年まで歌劇団に所属していた。

 発表によると、2人は昨年12月25日、東京都荒川区内の喫茶店にタクシー運転手の男性(55)を呼び出し、「(金林容疑者を)妊娠させたのに知らんぷりしている。俺はヤクザだ。誠意を見せろ」などと現金10万円を脅し取ろうとした疑い。

 煙山容疑者は容疑を認め、金林容疑者は「脅して金を取るつもりはなかった」と容疑を否認しているという。金林容疑者は昨年11月、出会い系サイトを通じて被害者の男性と知り合い、複数回会っていたが、妊娠はしていなかったという。
(2012年7月4日07時52分 読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120703-OYT1T01024.htm