- 作者: 星野博美
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2008/05/16
- メディア: 新書
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数日前に星野博美『愚か者、中国をゆく』を読了。
『謝々! チャイニーズ』*1の星野博美さんが香港中文大学留学中の1987年に米国人の「マイケル」と行った香港からウルムチまでの中国大陸鉄道旅行。但し2005年の時点での回想。とはいっても、香港からウルムチまでの沿線風景や観光地などはあまり記述されない。この本の記述の多くを占めているのは、中国で如何に列車の切符を買うのかということ、そして同行の「マイケル」との齟齬である。ただ黄牛(ダフ屋)が全然出てこなかったのはちょっと奇妙にも思った。私が初めて中国に行った1989年には駅前にけっこうダフ屋がうろついてはいた。それにしても(1989年もそうだったけれど)この頃は(あくまでも政治的レートであって市場を繁栄したものではなかったにせよ)1RMB=40円というレートだったのだ。現在では既に10円を割っている。
はじめに――餃子とJAPANと四人組
第一章 香港
第二章 広州
第三章 西安から蘭州へ
第四章 嘉峪関まで
第五章 シルクロード
第六章 ウイグル
第七章 旅の終わり
第八章 それから
おわりに――時代遅れの地図
- 作者: 星野博美
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/10
- メディア: 文庫
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現在中国に流れる時間のスピードをさらに加速させているものの正体は、飢餓感と危機感だと私は思っている。あまりに平等な社会では、ほとんどのものは手に入らない。そういう状況では、人は特権を渇望するようになる。その特権に対する飢餓感が、長い時間をかけて体内で肥大した状態で、中国の人々は資本主義の波に飲みこまれてしまったのである。その飢餓感を満たそうと人々が金に飛びついたとしても、その気持ちを私は簡単に否定する気にはなれない。
特権が金を生み、金が特権を生む。そのことは、「どこかへ行くとか何かを買うといった程度のことについては特権がなくても別段不自由を感じない社会」に生まれた時から暮らしている人間には、けっしてわかるものではない。もちろん、私にもわからない。ただ、その心情を必死に想像したいと思うだけである。
彼らは、どんな時代も永遠には続かないということを知っている。扉が閉じられる時はいつか必ずやって来る。だから自分や家族を守れるよう、その時までにできるだけ多くの権利を手にしておきたい。その思いが欲望をさらに加速させる。飢餓感が満たされることは、まだ当分の間、ありそうにない。(pp.329-330)