山口昌男『学問の春』

新書479学問の春 (平凡社新書)

新書479学問の春 (平凡社新書)

山口昌男先生の『学問の春 〈知と遊び〉の10講義』*1を読了したのは1月中旬のこと。


講義のまえに


第一講 「ホモ・ルーデンス」に出会う旅
第二講 まなび あそび
第三講 比較文化の芽――交換とコミュニケーション
第四講 雑学とイリュージョン――ホイジンガの学問的青年期
第五講 トーテムから原始的二元論へ
第六講 季節の祭――二つに分かれて競う
第七講 文化は危機に直面する技術
第八講 ポトラッチ1――二つに分かれて、繋がる世界
第九講 ポトラッチ2――破壊と名誉
第十講 クラ――神話的航海


読書案内をかねた参考文献一覧
編集後記(石塚純一

ホイジンガホモ・ルーデンス』をテキストとした札幌大学文化学部1997年春学期の講義を編集・加筆したもの。それぞれの「講」の終わりに、淺野卓夫という人による「講義ノート」を付す。内容は〈知的漫談〉という感じで、(断片的ではあるが)面白い話満載。何故『ホモ・ルーデンス』を採り上げたのかといえば、これが「比較文化論」の古典であることのほかに、ホイジンガが山口先生の学の基礎にある和蘭「ライデン学派」(「構造理論」*2)の人類学者たちとの交流の中で研究していたこと、また山口先生がかつて調査したインドネシアのブル島の事例が採り上げられていることによるのだろう(See 第一講、第二講)。
ホモ・ルーデンス (中公文庫)

ホモ・ルーデンス (中公文庫)

ところで、山口先生がナイジェリアのイバダン大学で教えていた1966年にナイジェリア北部でハウサ族がイボ族を突然虐殺し始めるという事件が起こり、その後の「ビアフラ戦争」*3の発端となった(第三講、p.67)。曰く、

(前略)ナイジェリアではハウサがイボを殺し始めるという事件にまで発展したわけですが、そのときにアイルランド人の神父がこの事件の背景についての論文を書いた。僕がそれを読んでいてびっくりしたのは、突如として、この事件は本質において日本の関東大震災(一九二三年)における朝鮮人虐殺と同じような構造を持っている、と指摘していたからです。ナイジェリアで出た雑誌の論文の中で日本が登場したのでびっくりした。ということは、日本人の朝鮮人虐殺の問題は、虐殺という点で、このハウサ族のイボ虐殺と相通じるところがあるというわけで、すでにもう比較文化の対象となる。(pp.67-68)
この「アイルランド人の神父」の論文は? 巻末の「参考文献一覧」には出ていないぞ。

*1:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101228/1293511035 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110208/1297180408

*2:構造主義」じゃなくて。See also 宮崎恒二「オランダ構造主義」in 綾部恒雄編『文化人類学15の理論』

文化人類学15の理論 (中公新書 (741))

文化人類学15の理論 (中公新書 (741))

*3:「ビアフラ戦争 」については、カート・ヴォネガットが『ヴォネガット、大いに語る』所収のエッセイで詳細に言及していた。

ヴォネガット、大いに語る (1984年) (サンリオ文庫)

ヴォネガット、大いに語る (1984年) (サンリオ文庫)