バグダッドから来た

http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100927/1285609475に対するコメント;


Nessko*1 2010/09/28 11:22
>狭い意味でのラヴ・ソングというのは少なかった
たしかにそうですね。いまでもそうかな。
同性愛者のミュージシャンが歌うプロテスト・ソングでないと、
同性愛という要素が重点になることはないということでしょうか。
トム・ロビンソン・バンドというのがあったのを思い出しました。

歌舞伎だと色子が出てくることがありますが、
江戸時代に出来上がった様式の中でのことですから。
女の役は女形がやる演劇ですしね。

>原初的反抗
ブラック・メタルで印象に残るのは、ヴォーカルですね。
ああいう歌い方をあえてする、というのに意味がありそうなんです。
そして、音質をあえて悪い状態で作品化する、というやり方とか。
必然性を感じさせるスタイルにはなってるんですよ。
過去のヘヴィメタルを踏まえた現在的なスタイルと見ていい。

ヨーロッパではどうなのかはわかりませんが、
アメリカの大衆音楽では、もはや黒人音楽のテイストが優性、
メジャーなヒットも黒人音楽的な色合いの濃いものが多く、
白人の音楽のほうがレイス・ミュージック化してきているのかもしれない。
クラシックという西洋白人文化が生んだ偉大な様式があるわけだけど、
あれは学校で教える文化になっちゃってるので、
あの様式では掬えない感情が出てきてしまうということなのでしょうか。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100927/1285609475#c1285640528

ケイト・ブッシュの”Wow”が男性同性愛者に言及していることを思い出す。例えば、

He'll never make the screen.
He'll never make the 'Sweeney',
Be that movie queen.
He's too busy hitting the vaseline.
という部分*2。また、同じくLionheartに収められた”Kashka from Baghdad”も男性同性愛者のカップルを歌ったものだとされている;

Kashka from Baghdad
Lives in sin, they say,
With another man,
But no one knows who.
http://gaffa.org/sensual/l_kfb.html
ここで決め手になるのは”With another man”というフレーズで、全篇で同性愛を示唆している箇所はほかにない。「バグダッド出身のカシュカ」ということで、イラク生れのアラブ人若しくはユダヤ人ということになるのだろうけど、単純にことが運ばないのがケイト・ブッシュの世界。Kashkaはポーランド語で、英語ではKateに相当するという*3。つまり女性名。Kashka from Baghdadを略せばKBで、当然ながらKate Bushが喚起される。このイラク生れの男はケイト・ブッシュのアルター・エゴのひとつとして構築されているということになる。
Lionheart

Lionheart

ケイト・ブッシュ・ストーリー(紙ジャケット仕様)

ケイト・ブッシュ・ストーリー(紙ジャケット仕様)

ブラック・メタルで印象に残るのは、ヴォーカルですね」。デス・メタルの〈デス声〉というのがありましたが。ただ、ディストーションというのは、ブルースにおけるチョーキングという奏法の発明以来、音としてのロックのコアをなしているとも言えますね。何しろ如何にしてギターの音を歪ませるかということで、諸々のエフェクターが開発されてきたわけですから。また「音質をあえて悪い状態で作品化する」。やはり(ハイ・ファイに対抗した)ロー・ファイの系譜というのがあるのでしょう。その基点には、キング・クリムゾンのEarthboundとかを置きたくなりますが。
Earthbound

Earthbound

アメリカの大衆音楽では、もはや黒人音楽のテイストが優性、/メジャーなヒットも黒人音楽的な色合いの濃いものが多く、/白人の音楽のほうがレイス・ミュージック化してきているのかもしれない」。Great American Songbookという言い方があるのですが、具体的に何を指すのかというと、所謂ジャズのスタンダードということになる。ブルースやソウルに対抗する白人の音楽というと、カントリー/ブルーグラス*4ということになるのでしょうけど、これにしても黒人音楽との相互影響抜きには考えられず、黒人性を抜かしたとしても、今度はアイルランドケルト)的な要素というのが大きく出てきて、白人文化とは一応は言えてもWASP固有の文化とは言えなくなる。というか、WASP固有の文化って何なの? という問題もあると言えます。さて、「クラシック」ですが、米国社会における「クラシック」の社会・文化的位置づけがいまいちわからないということがあります。ヨーロッパ社会における「クラシック」の持つ意味というのは、例えば独逸(元ホーレンシュタイン家の支配下という意味で)とオーストリアや伊太利とではかなり違うのではないか*5。ウィーン人や伊太利人にとってオペラを観に行くのは日本人が歌舞伎を観に行くのと同じなのでは?*6 
ところで、米国的な作曲家というと、ガーシュインということになるのだろうか*7。それよりも、アーロン・コープランドなのかも知れない。話は変わるけれど、コープランドは実はキース・エマーソンいちばんのお気に入りの作曲家で、ELPTrilogyでは「ロディオ」を、また発売当時はとにかく悪評だったWorksでは「庶民のファンファーレ」をカヴァーしている。
トリロジー(K2HD紙ジャケット仕様)

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Works 1

Works 1

先週、ムージル『寄宿生テルレスの混乱』*8を読了。詳しく記している余裕はないが、異性愛/同性愛というふうに分化する以前の暴力衝動或いは支配衝動ということは記しておこう。

寄宿生テルレスの混乱 (光文社古典新訳文庫)

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