http://d.hatena.ne.jp/ohnosakiko/20090613/1244834181
他人様の欲望のあり方を勝手に云々することはそれ自体、下品かつ野暮で、多分〈セクハラ〉を構成するのではないかと思うので、あまり深くは立ち入らない。ただ、「エロゲー」を巡るうんざりするような言説の数々の中に、別の視角を導入するような重要なエントリーであろうとは言っておきたい。
「ファンタジー」について言えば、「ファンタジー」と実際の〈願望〉の区別がつかない、或いは敢えて区別を忘れたふりをするというのがマッチョな男権主義者(それから頭の弱い〈フェミニスト〉)の手口であるとはいえる。「レイプファンタジー」を楽しむ人だって、実際に自分がそういう目に遭うことを望んでいるわけではない。「ファンタジー」というのはあくまでも中和化(neutralize)されている。ただ、忘れてはならないのは、目的意識的な行為には「ファンタジー」が構成要素として組み込まれているということだ。目的意識的な行為というのはその目標が未来完了形で想像的に先取りされ、その目標のための手段の連鎖として組織化されるような行為である。男性が「レイプ」物のポルノを見ることと実際の性犯罪とが関係する可能性が考えられるのはそこにおいてである*1。
さて、私はエロは大好きだけれど、エロとしての「レイプ」に興奮することはない。寧ろ嫌悪感がある。だから、〈凌辱物〉とかをポルノとして愉しむ人の気が知れないというか、理解が困難である。何故嫌いなのかといえば、勿論ヴィジュアル的な単調さということもある。だいたいヴィジュアル的に見栄えのするアクロバティックな体位というのは女性の側のアクティヴな参与が必要なのであって、「レイプ」的なシチュエーションではそういうのの達成は期待できない。それだけではない。〈凌辱物〉としてネットに出回っている動画を見たことがあるけれど、そこで描かれているのは、最初は嫌がっているけど段々とよくなっていくといった生温いものではなく、それとは次元を異にした、被害者の恐怖や引きつり、絶望的な抵抗、最終的な無力感であって、これはエロというよりは純粋な暴力だろう。こういうのをエロとして見ようとしても、(私の場合は)萎えてしまう。その暴力性は、彼って強引とかベッドの上ではケダモノというのとは別物、別次元であるように思える(大野さんは連続性があるとお考えのようであるが)。
私が言いたいのは、「レイプ」への欲望というのは性欲とは無関係ではないものの、別次元に属するのではないかということだ。ではどのように異なり、また関係しているのか。以下はいい加減な想像にすぎない。
先ず考えられるのは神聖冒瀆による聖性の顕現という宗教的思考。神聖なるものは冒瀆され、血まみれ・泥まみれになることによって却ってその聖なる本質が光り輝くというもの。耶蘇の聖性・栄光は十字架にかけられ・無残に殺されることによって却って顕わになる。また、左翼(の一部)に見られる〈貧乏萌え〉も同じ図式を共有するといえる。人民は貧しければ貧しいほど、虐げられれば虐げられるほど、気高く・崇高なものとなる、とか。勿論、勝手に崇拝されて、そのことによって痛めつけられる被害者にとっては冗談じゃないということは言うまでもない。
あとさらに重要なのは、セックスが〈権力〉或いは〈政治〉の(不適切な)隠喩となっているということだろう。勿論ここでいう〈権力〉或いは〈政治〉というのは一面的に命令(強制)関係として理解されたそれであり、そのように理解される限り、権力と暴力、政治と戦争との区別は無化される。以前東郷健が昭和天皇はマッカーサーにおかまを掘られたとか発言して物議を醸したということがあったが、国家間の戦争を含む関係を性関係に喩えるというのはけっこうありふれたことなのでは? 昔誰かが現代文学において階級闘争という観念が生き残っているのは(SM系の)ポルノ小説だけだということを言ったが、よくありがちな奥様やお嬢様が下男に犯されるというパターン。これは権力関係(支配関係)の逆転がセックス(レイプ)というかたちで表現されているわけだ。また、南京大虐殺でもそうだし、蘇聯兵が満洲や独逸で行ったというレイプ。これもたんに欲求不満の兵士どもが羽目を外したということではなく、〈占領〉という事態をシンボリックに表現しているということになる*2。
それを法的に禁止するかどうかはともかくとして、(男性による)「レイプファンタジー」消費に対する批判というのはこの準位で行われるべきだろうし、またそれには〈政治〉を想像することの貧困が関わっていると思うのだ。
*1:ただ、だからといって、ここからすぐにその手のポルノと性犯罪を因果関係で結ぶこと、或いはそれを口実に法規制しろということにはならないだろう。推理小説と実際の殺人との関係について、推理小説を真似たり・ヒントにしたりして殺人する奴がいるので、推理小説を発禁にしろという議論は乱暴なんじゃないか。それにしても、ポルノにおける「レイプ」と古典的な探偵小説における殺人というのは構造的な位置が似ている。
*2:あと、内ゲバの一環としてのレイプとして、左翼において敵対党派の女性活動家を拉致してレイプしたということが行われたという話は聞いたことはあるが、文献的その他の裏は取れておらず、そういう話がフォークロアなのか事実なのかはわからない。