増井経夫『中国的自由人の系譜』

中国的自由人の系譜 (1980年) (朝日選書〈163〉)

中国的自由人の系譜 (1980年) (朝日選書〈163〉)

増井経夫『中国的自由人の系譜』(朝日新聞社、1980)を暫く前に読了する。


I 中国史にみる自由への道
一、商人の生き方
二、文人のあり方
三、科学者と権力
四、奸雄の行動


II 中国史から学ぶ
一、研究ノート
1 史家・劉知幾
2 妖人・李卓吾
3 才人・馮夢龍
4 歴史書の形式
5 乱世考
6 都市革命
7 権威の主張
8 文は人なり
9 比較史学
10 評価の逆転

二、明代史雑草
1 宮廷史学の視座
2 商業活動と自由主義
3 明代科挙の傾向
4 会館の発祥
5 雑学の発生

三、中国史における人物評価の転変

四、中国を考える
1 中国の表と裏
2 中国の制服と日本の制服
3 善隣とは何だろうか
4 孔子批判の因縁
5 林彪事件と中国史
6 現代君子の条件
7 魯迅と西郷


あとがき

「I 中国史にみる自由への道」に略述された「中国的自由人」は、陶朱公、呂不韋、桑弘羊、黄巣、蒲寿庚、王直、伍敦元、曹植、王戌、王之渙、蘇洵、趙孟頫、文徴明、?寿平、趙翼、張衡、賈思勰、祖沖之、宇文�、一行、沈括、李時珍、徐光啓、郭解、恒温、史思明、李璮、呉三桂洪秀全。中でも興味深かったのは、宋朝の皇族として生まれ、南宋滅亡後に元の高官となった 趙孟頫(pp.51-53)か。彼は「元代に華夷を超越して生き抜いた」(p.53)が、「宋の皇族だから宋朝に対して臣節を感ずることは少なく、元朝に対しても卑屈になることはなかった」(p.52)。
著者の増井経夫氏は1907年生まれで、郁達夫や魯迅とも面識があった人である。最後に収められた「魯迅と西郷」には、上海の内山書店で、魯迅から「増井さん、今度東京に帰ったら、西郷隆盛に関する本を、何でもいいですから集めて送ってくれませんか」と頼まれた話(p.218)が出てくる。しかしながら、魯迅は結局西郷隆盛については書かなかった。また、著者も「魯迅さんがどういうきっかけで西郷に気付いたのか、それを直接きくことはできなかった」(p.219)。