「粗品」

また、堀江敏幸『いつか王子駅で』からの抜き書き。


粗品には、差し出す側が本当は素晴らしいものだと信じていながらいちおうはへりくだっておく場合と、誰がどう見ても粗末なものを堂々と進呈する場合の二通りあって、正直なのは後者なはずなのに、多くはけちくさいと非難されることになる。つまり用法としては前者のほうが適切なのだ。たとえば私が自分自身を指して浅学非才というのはまったくの真実だが日本語の用法としては誤用になるわけで、みずからを浅学非才と称しうるのは名実ともに優れた人格者でなくてはならないのである。かつて一国の首相にまでなりあがった著名な政治家が、ある場所でおのれを浅学非才の身だと笑顔で言い切った場面をテレビで目撃したことがあったが、そのときに感じた違和感はおそらくこの誤用によるものだったのだろう。(後略)(pp.151-152)
「おのれを浅学非才の身だと笑顔で言い切った」「政治家」とはwho?
いつか王子駅で (新潮文庫)

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