Inter-Asiaのこと云々

時系列的にはhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070627/1182920247の続きとなる。
Inter-Asia Cultural Studies Shanghai Conferenceについて(忘れないうちに)つらつらと書いておこう。
初日は朝から大学院生の報告を中心としたPre-conferenceのセッションが行われていた。正式なオープニングは16時15分頃から。4時30分から、印度のサバルタン研究の第一人者であるPartha Chatterjee氏による”Dissolution or Transformation? Studying Peasant Culture in the 21st Century”という基調講演。印象に残ったのは、Partha Chatterjee氏がcivil societyとpolitical societyを区別し、フーコーを援用し、それぞれにgovernmentalityとsovereigntyという2 forms of powerを対応させ、前者によって後者と資本が結んだenclosureに抗して、new commonsを構築していく云々と語ったこと。それに対して、ディスカッサントとして発言した中国社会科学院の孫歌さんは、中国の歴史と印度の歴史を対比し、中国では印度のようにcivil societyが形成されていないと述べていた。
それから、レセプションがあって、早稲田の院生で華東師範大学に留学している池田智恵さんにお会いする。岡崎由美先生のお弟子さんなり。今回のコンファレンスでは裏方のスタッフとして活躍されていたと同時に、Pre-conferenceでも”Chinese Detective Novel in 1910s-1930s—Is Paper/Reader detective?”(「中国近現代探偵小説の発生と消失――新聞/読者は探偵する?」)という報告をされている。また、富山一郎氏に対してYou look very Western!と言って、英語で話しかけたことを覚えている。それから、タクシーで帰宅。高架を使うと意外に近い。
翌日は私たちのセッション*1のある日。地下鉄1号線の「〓*2 水路」駅からタクシーで上海大学へ。朝から臭豆腐を食べたので、何故か元気。”Reconstructing Culture and Communication in a Postcolonial Nation”というセッションを覗くと、Joanne Limという方が”Reality-sing Fantasy: Cultural Implications of Malaysian Idol and Malaysian Most Beautiful in Postcolonial Malaysia”という報告をしていた。内容はマレイシアにおける(中国で言えば『超級女声』のような)アイドル・オーディション番組についてだったが、その内容よりも、Joanne Limさんの流暢な英語のスピーチに聴き惚れてしまった。私たちのセッション”The Media in East Asia and Our Internal West”は無事に終わり、学食でのランチを挟んで、午後は”Rock Cultures in East and Southeast Asia at the 21th(sic.) Century”というセッションに顔を出す。Virya Sawangchot氏の”Chat Rak Rock: The Question on “Thainess” in Thai Rock Culture”は、主にタイにおけるロックを通してのナショナリズムの商品化と(マレー・ナショナリズムとも結びついた)南部のムスリム系住民の分離運動の激化との関係について論じる。台湾のJian Miao-juさんの”Into the Fuji Rock Festival Scene: Through the Gaze of Fans from Taiwan”は、フジ・ロック・フェスティヴァル(FRF)を「台湾人ファン」の視点から考察したもの。Internationalとlocal(日本)という軸にregional(亜細亜)という軸を加える。FRFは、台湾人ファンにとっては、台湾では観ることが難しい欧米のバンドを観る機会としてある。その上で、FRFのメイン・ステージでのregional(亜細亜)のバンドが登場する機会が少ないことを指摘していた。韓国のShin Hyun-joon氏の”Rock Culture in Korea: From Local Generational Politics to Regional Cultural Economy?”は韓国におけるロックとナショナリズムの関係を論じたものだが、興味深かったのは1970年代に軍事独裁政権によってロックのcriminalizationがミュージシャンをドラッグ関係でパクるという仕方で行われたこと*3、さらに左翼側からもロックは「文化帝国主義」の尖兵、「ヤンキー文化」として排撃されていたということ。そして、ディスカッサントの毛利嘉孝氏は日本のロックとナショナリズムの関係ということで、X-JAPAN小泉純一郎に言及。また、Jian Miao-juさんに答えるかたちで、福岡での外タレのコンサートの観衆の1割は韓国人だと語った。
夕方から、タクシー3台に分乗して、襄陽北路/淮海中路の「圓苑」へ移動。私は毛利嘉孝氏、清水和子さん、小泉恭子さんと一緒だった*4。不思議なのは、あの甘ったるい上海料理、それから中国で現在流行っている淡い味の麦酒、蜂蜜入りでやはり甘ったるい「上海老酒」がけっこう好評であったということだ。その後、村井さん、林さん、岡田さんというセッションのメンバーと歩いて、紹興路の「漢源書店」でお茶をして、さらに茂名南路のThe House of Blues and Jazzへ。The Wolfberry Blues Band。リード・ギターのBrad McClainという人、顔は一見キモオタ風だが、なかなか宜しい。
次の日のClosing Plenary Roundtableで、印象に残ったのは韓国のCho HaejoangさんがCSのサマー・キャンプを提唱していたこと。また、最後に吉見俊哉氏が2009年に東京で、Inter-Asia Cultural Studiesのコンファレンスを文化台風とジョイントして行うことをアナウンス。それから、Farewell Partyなのだが、ふつうの学会の懇親会のような儀礼的なスピーチもなく、ただみんな勝手におしゃべりをして、酒を呑む。村井さん、清水さん、丸川哲史さん*5、”Culture and Politics of East Asia’s Historical Memories”というセッションで”Rethinking the mourning, resistance, and the constellation of minority in Okinawan Politics”という報告を行い、辺野古の反米軍基地闘争にも積極的にコミットされている阿部小涼さん*6、中国映画史研究者の西谷郁さん、それから孫歌さんらが集まる。阿部さんから、1960年代に沖縄の反基地闘争とブラック・パンサーとの間に一瞬ネットワークができかかったという話を聞き、何故かブラック・パンサーの話で盛り上がる。さらにVirya Sawangchot氏がひとりで酒を呑んでいたので、こちらのテーブルに招き入れる。等々。
中途半端ではあるが、少し時間も経過し、記憶も曖昧になってきているので、ここら辺にする。

*1:Cf. http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070618/1182095918

*2:wen4. さんずい+水。GB6775.

*3:そういえば、日本でも1970年代後半に井上陽水ジョー山中舟木一夫らが相次いでハッパ関係で捕まるということが起きたが、このことの歴史的意味について考察している人はいるのだろうか。

*4:小泉さんは、私たちのセッションと同じ時間帯に”The Cute, the Snazzy, and the Dexterous: Popular Arts and Youth Cultural Practices in East Asia”というセッションで、”Visual J-Rock and Cosplay Subculture”という報告を行っていた。

*5:Cf. http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070624/1182702293

*6:http://okinawaforum.org/abksz/