七でも八でも

NANA -ナナ- スペシャル・エディション [DVD]

NANA -ナナ- スペシャル・エディション [DVD]

大谷健太郎の映画『NANA』を観たのはかなり前だ。
原作の漫画は読んでいない。ストーリーとか役者の演技とかには殆ど文句はない。中島美嘉にしても宮崎あおいにしても松田龍平にしても、まあいいんじゃないか。その点では、ちょっと検索して出てきた絶賛の声*1に異存はない。
しかし、根柢的な疑問がある。これははたして映画なのか。もしこれがTVドラマだったら、ああいいドラマですねといってしまう。この映画に対する絶賛というのは主としてストーリーとかキャラクターの設定に向けられているようだ。肝心なものが抜けている。それは映像だ。映画というものは新しいヴィジュアルな快楽(or苦痛)を与えてくれるものではなかったのか。この映画を観ていて、そのような快楽(苦痛)を得ることは殆どなかった。この映画は〈風景〉というものから徹底的に逃避している映画である*2。だから、ナナの故郷の街にしても物語の主要な舞台となる東京にしても土地の感覚が徹底的に希薄である。感動したシーンというのは、田圃の中の一本道をタクシーが奈々の実家へと向かうシーン、それから奈々の計らいによるナナとレンの逢瀬でホテルのバスに2人で浸かっているときに2人の背中越しに窓から垣間見える街の景色、それくらいなのだ。
また、パンク・バンドという設定なのだが、中島美嘉はヴィジュアル的にはパンクになれても、ヴォーカリストとしての彼女の資質はパンクとは相容れないんじゃないか。というか、「トラネス」というバンドを見ていると、この映画の監督がパンクということでイメージしているバンドはJUDY & MARY(というよりもその亜流)あたりらしいのだ。Orz*3。また、ライヴのオーディエンスの演技が全然駄目だと思った。クラシックのようにおとなしく坐って聴いているというのはともかくとして、この映画に限らず、日本映画で(勿論TVドラマでも)ちゃんとしたオーディエンスに出会ったことは殆どない。身体を揺らして音楽にノるという仕草を意識的に演技として行うというのはそもそも難しいことなのか。しかし、米国映画ではそんなことはないぞ。
五十嵐さんが(映画ではなく漫画の方を参照して)『NANA』の舞台についてあれこれと詮索している*4。私なりに2つのトポスを纏めてみると、


ナナの故郷;雪国、港町、ライヴ・ハウスと国立大学がある*5
奈々の故郷;雪国だけれどナナの故郷よりは南*6、平地、周辺部は田圃だけれど中心部にはビルが建っており、美術専門学校がある


最後に、ナナもレンも自分たちの老後にしみじみと思いを馳せている。

*1:Eg. http://yaplog.jp/sora2001/archive/271 http://blog.ketainovel.com/?eid=51424

*2:ストーリーからいっても、〈風景〉、それも主観的風景は重要な位置を占める筈だ。

*3:とはいっても、JUDY & MARYが嫌いだというわけではない。

*4:http://yas-igarashi.cocolog-nifty.com/hibi/2006/01/nana_4919.html

*5:それから、Vivian Westwoodのショップがあるというのも重要かも知れない。

*6:大雪のため新幹線が立ち往生しているときに奈々が乗り込んでくる。