「知らずに犯す罪」など

小池陽人*1、かずえちゃん*2性的少数者テーマに発信 僧侶・陽人のユーチューバー巡礼」『毎日新聞』2022年11月27日


抜書き。


小池 LGBTQについて発信しようよ思ったきっかけは。
かずえ 2013年から3年間、カナダに滞在しました。それまで日本では自分のセクシュアリティーを隠してきたのですが、カナダで僕が勇気を持って伝えると、友達の反応は「あっ、そうなんだ」くらいで、別に驚かれることもなかった。
小池 普通の個性として受け止められたんですね。
かずえ カナダでは05年から同性婚ができるようになり、僕が行った頃には男性同士が手をつないでいるとか、女性同士で家族を持っているのが当たり前の景色だった。自分もゲイということを隠すこともなく生活して、3年たって日本に帰りたいと思った時に「ゲイって悪いことじゃない」と発信できないかと思ったのです。

かずえ 僕自身は、小学校5年生くらいの時に周りの男の子と違うと感じました。友達が異性に抱き始めている恋愛感情が分からなかった。よく考えると、その感情が男の子に向いているなと。その時、子どもながらに、「バレたら終わりなんや」とも感じたんです。ちょうどその頃、テレビのバラエティー番組で男性の同性愛者を誇張したキャラクターがいて、学校でもみんな「気持ち悪い」と笑っていた。自分が抱いている感情って、笑われるし、気持ち悪い対象なんだと強く感じた。先生にも、男の子同士がふざけ合っていると「お前らホモか」と言う人がいた。先生の言うことは正しいと思っていましたから、自分の感情は「間違っている」と思いました。

小池 失敗もありますか。
かずえ あります。僕自身、ユーチューブを始めるまではLGBTQでもゲイ以外のことはよく知らなかったんです。ある時、男性として生まれ性自認は女性というトランスジェンダーの友人と話していて、何気なく「あなたはどんな男性が好きなの?」と聞いたのですが、その子は「私は実は女性が好きなんです」と。僕は「性自認が女性なら男性が好き」と思い込んでいた。自分自身、異性愛を前提に会話が進むことに居心地の悪さを感じていたのに、知らず知らず一緒のことをしていた。これまでにも悪意のない言葉で誰かを傷つけていなかったかと感じたんです。
小池 ある弟子がお釈迦様に「知っていて犯す罪と知らずに犯す罪、どちらが思いでしょうか」と質問をしたんです。知っていて犯す罪だと思いますよね。でも答えは逆だった。こんな例え話をされます。焼けた火箸があって、そう分かっていて握るのと、知らずに握るのではどちらが重いやけどになるか。知らずに握る方です。つまり、知らずに犯す罪にはちゅうちょがない。相手が傷つくと分からず、むしろ良いことだと思って言ったり行動したりすることもあります。だからこそ知る努力をしなきゃいけない。

小池 お寺や僧侶にできることは。
かずえ ユーチューブで撮らせていただいたゲイの方から、関係を公にせずに同居していたパートナーが病気で急逝した経験を聞きました。お葬式に行っても友人としてしか参列できない。でも一番つらかったのは、ずっと一緒にいたパートナーとの楽しい思い出を、ご家族や友達に隠さないといけなかったことだとおっしゃっていました。もし人生の最期に見送る立場の誰かがそういう知識を持っていたら何か気づいてあげられるのではないかと感じました。