「盗用」と「解雇」

朝日新聞』の記事;


浜松学院大、学長を懲戒解雇 業績虚偽と著作盗用を認定
4/29(木) 9:28配信


朝日新聞デジタル

 浜松学院大学・同大短期大学部浜松市)の石田勝義学長(75)が、2019年度にあった学長選挙で示した研究業績に虚偽があることを指摘されていた問題で、同大の調査委員会は28日、著作は盗用であると認定したと発表した。運営する学校法人興誠学園は、同日付で石田学長を懲戒解雇した。近く学長候補者選考委員会を設置し、新学長を選ぶ。

 調査委員会の梅藤久人・副理事長は会見で、「書籍の本文を作成者に了解を取らず流用し、自らの名義で『新たな書籍』とした事実を確認した」とし、「盗用に該当する」と述べた。

 問題となった著書は石田学長が2009年に出版した「重度知的障害児教育の実践 一人ひとりの子どもの幸せを求めて」。大学側によると、1977年に浜北養護学校が教員らの共著として出版した「重度障害児教育の実践 可能性を求めて」の本文を盗用しているという。同養護学校の著作であることを示す「まえがき」は削除され、著者名は石田勝義としていた。

 このほか、学長選で提出された研究実績19項目のうち5項目に虚偽が指摘されていたが、梅藤副理事長は「今回の調査委の調査はこの著作1件のみが対象」として他の5件については正式なコメントを控えた。

 一方で、石田学長が同大発行の「学習支援センター紀要」に掲載されたとする論文2件については「掲載されていないことを確認した」と述べた。

 一連の研究実績は同大の特別支援学校教員養成課程の国への申請時にも使われおり、梅藤副理事長は「文科省に報告し、状況を是正することでご理解を得たい」と話した。

 石田学長は一連の調査に、「特別支援教育に対する思い入れ故とはいえ、教育者・研究者として言い訳できない誤った行動であり、深く反省している」と話しているという。

 新学長選出までは今井昌彦理事・短期大学部部長が学長職務代理者を務める。(菅尾保)
https://news.yahoo.co.jp/articles/116d9f72f2f4c945ca5e4994dfd45c1024ef9034

「盗用」(剽窃)というのは遺憾ながら珍しいことではない。ただ、「盗用」によって大学の現職の「学長」が「懲戒解雇」されたという例は聞いたことがない。2019年に東洋英和女学院の深井智朗院長が「懲戒解雇処分」を受けた事件があったが、これは「盗用」ではなく捏造によるもの*1
1977年と2009年、2つの本の間には30年以上の時間がある。勿論現物を読んでいるわけではないので何ともいえないのだが、30年以上前に上梓された本をそっくりそのまま流用するということの意味がわからない。「特別支援教育」に関して言えば、1977年と2009年とでは、教育技術だけでなく、それを取り巻く制度やそれに対する社会的眼差しも全く変わっている筈だよ。「知的障害児」だって、1977年の時点では精神薄弱児と呼ばれていた筈。


学校法人興誠学園理事長「研究活動の不正行為に関する調査結果及び対応について(お詫び)」https://hamagaku.ac.jp/hgu/news/%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%B4%BB%E5%8B%95%E3%81%AE%E4%B8%8D%E6%AD%A3%E8%A1%8C%E7%82%BA%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E7%B5%90%E6%9E%9C%E5%8F%8A%E3%81%B3%E5%AF%BE%E5%BF%9C%E3%81%AB/



「このような事態となりましたことについて、文部科学省の皆様、教職員の皆様、そして何よりも本大学の卒業生、在学生及び保護者の皆様に心よりお詫び申し上げます」と言われているのだけど、謝罪すべき対象に謝ってないよね。「文部科学省」とかよりも先に、直接の被害者、つまり石田氏に「盗用」された本の著者(たち)に謝罪するのが筋だろう。
ところで、この石田氏はWikipediaの項目になっているのだが*2、生年、大学の卒業年度の記述がなく、石田氏は年齢不詳者として描かれている。また、「著作」においても、問題作である『重度知的障害児教育の実践』がネグレクトされており、資料的価値が損なわれている。