「他力」(五木寛之)

須藤唯哉*1「「他力」感じた引き揚げ体験」『毎日新聞』2020年11月1日


五木寛之*2へのインタヴュー記事。


五木さんは両親とも教師の家庭に生まれ、父親が朝鮮半島の学校に赴任するのに合わせて幼少期に一家で海を渡った。12歳の時に、日本が植民地として支配していた平壌で敗戦を迎え、間もなくソ連軍が進駐。その土地で母親を亡くした後、父親と2人で博多に引き揚げる。

「自分の運命は自分で切り開くとは夢にも考えていないですね。大河の一滴として海へ向かい、あちこちを流れ漂っていく意識しかない」。自ら意図して進んだわけではなく、周囲の環境から自然発生的に歩んできた道のり。五木さんはそれを「他力」と呼んでいる。「引き揚げてきて、一歩の違いが生死を分かつような偶然の中で生きていたので、努力を否定するわけではないが、それが全てではない。目には見えない大きな力に動かされているような気がする」と語る。
また、

67年の直木賞受賞作『蒼ざめた馬を見よ』の中国版が昨春、刊行された。発表から50年以上たつが、言論の自由を題材にした内容が、統制の厳しい中国で関心の高いことを裏付けている。
五木さんは「よく出したなと思う」と笑った後、こう言葉を継いだ。「学問や言論の自由を論じるなら、自分の本を読んでくれと思う。古関裕而に歌があるように、僕には小説を書くという方法がある。それぞれの視座から共通の敵を撃てというのが、僕のモットーです」
新装版 蒼ざめた馬を見よ (文春文庫)

新装版 蒼ざめた馬を見よ (文春文庫)