村上春樹『女のいない男たち』

村上春樹の短篇集『女のいない男たち』を読了したのは先週のこと。


まえがき


ドライブ・マイ・カー
エスタデイ
独立器官
シェラザード
木野
女のいない男たち

「まえがき」に曰く、

「女のいない男たち」と聞いて、多くの読者はアーネスト・ヘミングウェイの素晴らしい短編集を思い出されることだろう。僕ももちろん思いだした。でもヘミングウェイの本のこのタイトル”Men Without Women”を、高見浩氏は『男だけの世界』と訳されているし、僕の感覚としてはむしろ「女のいない男たち」よりは「女抜きの男たち」とでも訳した方が原題の感覚に近いような気がする。しかし本書の場合はより即物的に、文字通り「女のいない男たち」なのだ。いろんな事情で女性に去られてしまった男たち、あるいは去られようとしている男たち。(pp.9-10)
そういえば、五木寛之*1 の短篇集に『男だけの世界』というのがあったことを思い出した。これもヘミングウェイ=高見の影響?さて、この中で2篇に青山の根津美術館*2の裏というロケーションが使われているのが興味深かった。「ドライブ・マイ・カー」で主人公の「家福」は、死んだ妻の不倫相手の俳優「高槻」と、「根津美術館の裏手の路地の奥にある目立たない」バー(p.56)で会う。また、「木野」の主人公「木野」の「母親の姉」は「愛人」に貰った「根津美術館の裏手の路地の奥」の「小さな一軒家」の「二階に住み、一階で喫茶店を経営し」ていた(pp.230-231)。会社の同僚と不倫した妻と離婚して会社も辞めた「木野」はそこを引き継ぎ、バーを経営する。