岩永直子*1「医師たちの #MeToo 医療の世界にも蔓延するセクハラ」https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/doctors-metoo
医学界における「セクハラ」の数々。それから、「マタニティ・ハラスメント」(「マタハラ」)*2も。
「セクハラ」などが「蔓延する」背景には、医学界の特異性があるという;
また、
厚生労働省によると、2016年12月末現在で、全国の医師数31万9480人のうち、女性医師は6万7493人と21.1%でしかない。最近では医学部に占める女子学生の割合は3分の1まで増えているが、依然として男社会であることには変わりない。日本の37病院、619人の研修医に虐待や嫌がらせに関するアンケートをとった国立国際医療研究センターなどによる調査では、回答した355人中、85%に当たる301人が虐待やセクハラを受けた経験があった*3。
全体では言葉の暴力(72.1%)が最も多く、アルコール関連のハラスメント(51.8%)がそれに続いたが、女性医師だけで見ると、セクシュアルハラスメント(58.3%)が最も多かった。
冒頭でセクハラを訴えたミカさんは、医療界でセクハラが多いのは、医師が若い頃から置かれてきた環境に要因の一つがあると見ている。
「学歴社会のヒエラルキーのトップにいて、幼い頃から家庭でも学校でもチヤホヤされ、医師免許を取れば看護師や製薬会社の人に『先生、先生』ともてはやされる。医学生時代から男性医師との結婚を狙う外部の女子学生におだてられ、働き始めれば自分の指示で他の医療職を動かせる存在になります。周りもつけあがらせるし、増長する要素が揃っています」
医学部時代にもそれを補強する文化があったという。
ミカさんの出身大学では、文化祭の前夜祭で体育会系サークルの男子学生が複数で全裸になり、女子学生もいる前でマスターベーションをして精液を飛ばすのが盛り上がる出し物となっていた。
「女子高を卒業したばかりの自分は驚いて泣きました。医学部は他の世界と隔絶されていると思います。他の学部や大学と交流することも少なく、ずっと狭い世界にいるのでその文化や雰囲気に飲まれています」
さらに、ミカさんは証言する。
「特に医学部の体育科系サークルでは、BuzzFeedでも書かれていたように、先輩後輩の関係性で診療科に入る文化が残っています*4。狭い上下関係が医師になってからも維持され、下品なことを一緒にやることで男性同士の共犯関係を深め、結束力が強くなる。セクハラに疑問を持つ人がいても外部に話さず、誰かが反逆した場合、一気にその人への攻撃が強まるので何も言えない状況にあります」
妊娠・出産と仕事の兼ね合いが自分ごとである女性医師が教授や部長など、組織で指導的な立場になるまで残っていないーー。そんな現状も、セクハラやマタハラが蔓延する原因の一つだと証言してくれた女性医師たちは口を揃える。
「研修医時代、ベテラン女性医師がいた診療科は男性医師がセクハラ発言をすると、『また先生はそんなことを言って!』と釘を刺してくれました。笑って受け流していた私にも『先生も乗っちゃだめよ』と言ってくれた。そんな守ってくれる女性医師が上司にいたら、セクハラが延々と受け継がれることもなかったと思います」とミカさんは言う。
どちらの証言でも「体育会」或いは「運動部」が出てくる。2016年に発生した千葉大学医学部生による集団レイプ事件でも、犯人たちは「医学部の学生だけが所属する体育会系の部活」繋がりだったことを思い出した*6。ここでも、飲み会での「全裸」は定番だったという。問題は「ホモソーシャル」*7な内閉的集団の弊害ということであり、所謂「体育会」にそれが濃縮されているということなのだろうか。その意味では、医学界は特異というよりは典型であるともいえるのでは?
医学部出身で、規模が大きく歴史も長い運動部に所属していた同僚の朽木誠一郎記者*5は、こうした文化の中に身を置いてきたが、同時に違和感も感じていたという。「私の出身大学では、OB・OGも多数参加する飲み会の席など、折に触れて先輩の言うことは絶対だと叩き込まれ、この文化の中で生き残るにはそれに従うしかない。イベントの時に裸になったり、飲み会に同じ学年の可愛い女の子を連れて行ったりすることで、忠誠心が試されます」
「違和感を持ちながらも、先輩に気に入られれば、高い教科書を譲ってもらったり、ご馳走してもらったり、大きなメリットがありました。そして、それは医師になった後にもずっと続くコネとなることがわかっていました」
運動部で大学対抗の大会があると、主催大学がホテルの大広間などを借りて「レセプション」と呼ばれるパーティーを取り仕切る。そこで低学年の学生が芸を披露するのが慣例だったが、裸になるのは男性の先輩やOBに確実にウケる鉄板芸だった。
「女子選手や女子マネージャーも会場にいましたから、きっと見るのは嫌だったと思います。でも多数派の男性の先輩やOBの医師はえぐい芸ほど喜ぶし、当時はウケたり、ノリのいいやつと思われるのが単純に嬉しかった。この文化の中にいると、自分がおかしなことをしているということさえ気づけなかったんです」
低学年でそうした文化を仕込まれ、先輩になればそれを引き継ぐように後輩に指導していく。それが医師になってからも続く縦社会を強固にしていく一面もあるのではないか、という。
「そういう文化がいやになって、僕は新たにそんな関係性がない運動部を作り、別の世界を知りたいと進路を迷いました。きっと今もそんな思いを抱えている男性医師や男子学生は少なくないと思います」
*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170519/1495162858 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170527/1495852041 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170829/1504009108
*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130706/1373065950 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20151216/1450268050 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160303/1457022944
*3:Nagata-Kobayashi S, Maeno T, Yoshizu M and Shimbo T. “Universal problems during residency: abuse and harassment.” https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19573185
*4:See 朽木誠一郎「大学病院の「連続手術死事件」に今、どう向き合うか」https://www.buzzfeed.com/jp/seiichirokuchiki/ishikokushi-saijuken-03
*5:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170531/1496208707 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170829/1504009108
*6:「「千葉大医よ、お前もか」エリート大学生による“集団性的暴行”が多発する理由」http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161130-00008631-jprime-soci&p=1 Cited in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161203/1480790613
*7:See eg.http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060305/1141591716 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061012/1160664502 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080430/1209520910 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090702/1246541132 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090716/1247682636 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091124/1259062337 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110711/1310400277 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150512/1431444219 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160310/1457624745 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160423/1461397446 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160730/1469838677 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161115/1479241450 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171114/1510685554 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171121/1511240378