経済成長の効果?

週刊ポスト』の記事;


中国で肥満児童が急増 2030年には5000万人予測も
10/7(土) 7:00配信 NEWS ポストセブン



 北京大学などがまとめた最新の報告によると、2030年に中国の小学生以上の児童の4分の1が肥満または太りすぎになり、その数は5000万人にも達することが明らかになった。1985年の肥満児童数は615万人だったので、2030年にはその8倍以上に急増していることになる。この結果、児童が成人した際に、慢性化した生活習慣病を抱え、中国自体が「病気大国」になる可能性が強いという。ニュースサイト「中国ネット」が報じた。

 肥満児童急増の大きな原因は中国の「一人っ子政策」による甘やかしや、カロリー過多の食生活への急激な変化、さらに運動の減少などが挙げられる。この結果、7歳以上の児童の太りすぎ・肥満の比率は2030年には5000万人と児童数全体の28%に達する。ちなみに、日本における肥満児童の割合はここ数年10%で横ばいの状態。

 中国では農村部における1985年の肥満児童の比率は全体のわずか1%だったにもかかわらず、それが2014年には男児で17%、女児で9%に増加。さらに、2016年には中国全体における肥満児童の男女比では、男児が23%、女児が14%となっており、農村部より都市部での肥満児童の増加が著しくなっている。いずれにしても、肥満児童の増加自体が、風邪の流行のような、一種の社会的な流行病となっていることを示している。

 このような肥満児童の増加に伴い、中国政府が今後、医療サービスの拡充の必要性に直面することは確実だ。

 肥満児童が成人となった際、太りすぎや肥満による成人の慢性病が経済にもたらす負担は2002年の211億1000万元(約3588億円)から、少なく見積もっても2倍以上の490億元に増加する見通しだ。これはあくまでも、肥満や太りすぎが原因の病気に限られるが、肥満などが直接の原因ではない、がんや精神的病などの副次的な病気を加えると、一気にその5倍以上に跳ね上がる可能性がある。

 専門家は、過去30年で肥満率が急上昇したのは中国のホワイトカラーが「快適なライフスタイル」を送るようになったためだと分析する。先日、西安市のある会社は、体重を1キロ落とすごとに100元(約1700円)のボーナスを与えるという従業員のダイエット奨励策を打ち出した。

 これについてネット上では「肥満は古くて新しい問題」との声や、「肥満は亡国の原因であり、中国共産党一党独裁体制の崩壊にもつながる。習近平主席は肥満児童問題に国ぐるみで真剣に取り組むべきだ」との指摘もなされている。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171007-00000008-pseven-cn&pos=4

知り合いにも、小学校2年生で既に50kg超という男の子がいるのだった。基本的には、中国の経済成長の効果といえるだろう。1985年に農村部で「肥満児童」が殆どいなかったこと、現在でも農村部よりも都市部で増加率が大きいことからも明らかだろう。上の記事で言及されていないのは、現実と意識(或いは文化)とのギャップだろう。中国ではスリムな子どもより太めの子どもを健康的だと称賛する風習はある。或いは、子どもが痩せていることにはとても神経質になる。中国に限らず最近まで飢餓の危険が大きかった社会では太っていることは寧ろ豊かさの象徴としてポジティヴな価値が与えられていたといえる*1。特に中国の高齢者は実際には数千万規模のジェノサイドであった1950年代末の大飢饉を経験し、その記憶を引き摺っている。
ところで、中国における肥満と貧困の関係はどうなっているのだろうか。先進国においては、今や「肥満」は貧困の相関現象とされるようになっている*2。また、Richard Wilkinson & Kate PickettのThe Spirit Levelは収入の格差(不平等)と肥満率が正比例関係にあることを示している(p.91ff.)。なお、「肥満」をスティグマ化すべきではないという視点については、例えばRobin Marantz Henig “Losing the Weight Stigma”*3
The Spirit Level: Why Equality is Better for Everyone

The Spirit Level: Why Equality is Better for Everyone

*1:搾取者や支配者がステレオタイプ的に肥満として表彰されることもある。左翼的カリカチュアにはやせた資本家は登場しない。英語にもfat catという表現がある。

*2:See eg. 小山エミ「肥満増加の裏にある米国の農業政策と階級格差」http://macska.org/article/196 [Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070820/1187612830] 「所得低いほど高い喫煙率、歯少なく肥満者多い」http://www.yomiuri.co.jp/national/20151214-OYT1T50013.html [Cited in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20151216/1450192057] 井上充昌「生活保護の男性、3割超がメタボ 女性も非受給者の3倍」http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160925/1474821301 [Cited in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160925/1474821301]

*3: http://www.nytimes.com/2008/10/05/magazine/05wwln-idealab-t.html Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081011/1223665828