トランプのアメリカ? ブッシュのアメリカ?


pomme1919*1 2017/02/19 18:01
公民権運動以前のアメリカ南部の人種差別のすさまじさについては、例えばウイリアム・フォークナーの小説に生々しく描かれています。フォークナーは必ずしも人種差別反対の立場で書いたわけではないのですが、だからこそ人種問題が根底にある南部の悲劇性が非情に表現されています。
代表作のひとつ「八月の光」は黒人の血が混ざっていると噂される主人公(見た目は白人と変わらない)の悲劇を描いた小説ですが、作者はこの作品について「人間にとって自分が何者かわからぬという状態ほど悲劇的運命はない」と述べています。アメリカの南部で自分が白人か黒人かわからないというのは、日本人の想像を越えた悲劇だということなのでしょう。しかも残念ながらこの悲劇はフォークナーの生きた時代(19世紀末〜60年代初頭すなわち公民権運動が起こる前)で終わったわけではなく、現在も依然として続いているのではないでしょうか。

ところで、トランプの大統領当選が決まったとき、私の脳裏に浮かんだのが映画「イージーライダー」(1969)のラストです。主人公ふたりは白人ですが、保守的な人々からは憎悪の対象となるヒッピー青年。改造オートバイで北部から南部へきままな旅の最後、いわゆるディープサウスのミシシッピー州(フォークナーの幾多の小説の舞台もここです)で異端なものをすべて憎む南部人に無残に撃ち殺されるあのシーンです。これは決してフィクションではなく、たとえば公民権運動の時、北部から応援にきた学生が地元民に惨殺されたたぐいの事件があったことはよく知られています。トランプ当選で、今までは表には出てこなかった「むき出しの暴力的なアメリカ」が大手をふるって現れたような戦慄を感じた人は多かったのではないでしょうか。
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20170219/1487489577#c1487494892


pomme1919 2017/02/19 18:08
>19世紀末〜60年代初頭すなわち公民権運動が起こる前
公民権法制定の前の間違いです。
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20170219/1487489577#c1487495281

たしかに『イージー・ライダー*2は「南部」の残酷さを提示していた。ただ、デニス・ホッパーピーター・フォンダジャック・ニコルソンの旅の方向は「北部から南部へ」ではなく、Go Eastというか、カリフォニアからニューオリンズを目指したもの。人種ということでの米国における南北の亀裂を描いた映画ということでは、やはりノーマン・ジュイソンの『夜の大捜査線(In the Heat of the Night)』でしょ。しかし、それが〈トランプのアメリカ〉なのかどうかはわからない。私が思ったのはトランプというよりも寧ろ〈ブッシュのアメリカ〉じゃないだろうかということ。まあ、『イージー・ライダー』や『夜の大捜査線』よりも前のもっと禍々しい「むき出しの暴力的なアメリカ」が露呈したといえないこともない。例えば、クー・クラックス・クラン*3とか。そうなると、コーエン兄弟の『オー・ブラザー!*4ミシシッピ。まあ、トランプの支持層として人口に膾炙されている鍵言葉であるAmerican answer to 熱湯浴たるAlt-right*5やラスト・ベルト*6と「南部」というのは重ならない。ラスト・ベルトということで典型的に語られるのは、例えばジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス*7に出てきたオハイオ州クリーヴランドのようなかつての重工業都市でしょ。「南部人」といえば、アーカンソー州生まれ、元アーカンソー州知事のビル・クリントンこそちゃきちゃきの南部人だよ。ヒラリーはシカゴ生まれだけれど。
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