演技力と勇気

朝日新聞』の記事;

「配達員が屈強でかなわない…」恐喝未遂容疑で組員逮捕

2016年10月28日05時42分


 暴力団組員が屈強な宅配便の配達員に屈した――。

 組事務所に届いた代金引換の宅配物を脅し取ろうしたとして、警視庁は、いずれも指定暴力団松葉会系の組員古玉雄介(32)=東京都荒川区=、大場一利(35)=愛知県半田市=の両容疑者を恐喝未遂容疑で逮捕し、27日発表した。

 荒川署によると、大場容疑者は6月12日、インターネットで高級腕時計(販売価格約86万円)を注文。翌日、佐川急便の男性配達員(38)が荒川区町屋3丁目の組事務所に品物を届けに来た際、大場容疑者が古玉容疑者にモデルガンを突きつける「ヤクザ同士の内輪もめ」の場面を見せつけ、代金を払わずに商品を脅し取ろうとした疑いがある。

 ところが、この配達員は、同行していた同僚男性(44)とともにモデルガンと商品を取り上げ、110番通報。容疑者2人は慌てて事務所から逃走した。大場容疑者は「配達員が屈強でかなわないと思った」。古玉容疑者は「大場(容疑者)がやったことだ」と容疑を否認しているという。
http://www.asahi.com/articles/ASJBW6CVKJBWUTIL04L.html

やくざというのは他者に対して、自分が如何に強くて怖い存在かということを印象付けなければならない。背中の彫り物もちんぽの真珠*1もそのようなディスプレイのための小道具だということになる。他人を怖がらせてなんぼという、『モンスターズ・インク』のような職業なのだが、重要なことはあくまでも強くて怖いというイメージを他者に抱かせることであって、客観的に強くて怖いということではない。だから、それが虚勢であるということが見破られてしまうと、やくざはアドヴァンテージを失って弱者の位置に転落してしまう。やくざに要求されるのは(迫真の演技という意味での)演技力である。この事件は或る意味で演技力と演技力の対決でもある。本物のやくざがやくざを演じるというメタ演劇的な側面もあるわけだけど。古玉雄介と大場一利は大根役者であって、「配達員」に自らがやっていることがただの演技だということがバレてしまったのだ。また、小道具のちゃかも「モデルガン」だと見抜かれてしまった。「配達員」にあったのは先ず勇気であったといえる。これがあったからこそ、やくざたちの虚勢にびびることなく、その下手な演技を冷静に観察することができた。また、「配達員」もまた役者であろう。ほんとうに「屈強」かどうかはわからない。しかし、少なくとも古玉と大場の二人は「屈強」であると信じ込んで、びびりのあまり、とんずらしてしまった。
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「佐川急便」というと、他方で「パワハラ」事件も報道されている;


藤井詢也「上司からエアガン・つば…佐川急便22歳自殺、労災認定」http://www.asahi.com/articles/ASJBW5WG7JBWUNHB00Z.html


「エアガン」で鍛えられれば「屈強」にもなる筈だとも思った。

*1:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070702/1183384170 これはちょっと違うか。