高齢者だから?

8月7日に東京の杉並区でお祭りの行列に火炎瓶を投げ込んだ男が自殺するという事件が起きた。
朝日新聞』の記事;


サンバイベントに火炎瓶か 近所の男性「うるさくて嫌」

2016年8月7日23時41分

 7日午後7時35分ごろ、サンバのイベント中だった東京都杉並区久我山5丁目の商店街で「火炎瓶が投げ込まれた」と110番通報があった。投げ込まれたものによる火で、観客ら1〜47歳の男女計15人がやけどなどのけがをしたといい、警視庁が殺人未遂事件として捜査している。

 現場は京王井の頭線富士見ケ丘駅前の商店街で、この日は「七夕まつり」の最終日。高井戸署などによると、サンバのイベント中に近くの3階建て住宅3階付近から祭りの列に火炎瓶のようなものが投げ込まれた。現場からは計6個の火炎瓶の残骸が確認されたという。

 署が住宅内を調べたところ、階段付近で住人とみられる60代の男性が首をつった状態で見つかった。男性は意識不明の重体で、地元商店会の依田健治・事業部長(58)によると、この男性が、油が入った瓶と火が付いたガスバーナーがセットになったものを投げ込んでいたという。男性は最近、「祭りがうるさくて嫌だ」などと近所の人に話していたという。
http://www.asahi.com/articles/ASJ8771YHJ87UTIL030.html


夏祭り会場に火炎瓶? 容疑の男性、首をつって死亡

2016年8月8日10時56分

 東京都杉並区の夏祭り会場で7日夜、火炎瓶のようなものが投げ込まれ、観客ら男女15人がけがをした事件で、警視庁は8日、近くの住宅で首をつって意識不明となっていた男性(68)が死亡した、と発表した。警視庁は同日午前、投げ込んだのはこの男性とみて、殺人未遂容疑で男性宅の捜索と現場検証を始めた。


 高井戸署によると、火炎瓶のようなものは夏祭りのサンバの列に投げ込まれて火が燃え上がり、1〜47歳の15人がやけどなどのけがをした。両足にやけどを負った30代の女性が入院したが、いずれも命に別条はないという。近くの3階建て住宅から男性が火炎瓶のようなものを投げていたのが目撃されていた。捜査関係者によると、住宅内からは未使用のものも見つかったという。

 近隣住民によると、男性は最近、「祭りがうるさくて嫌だ」などと話していたという。
http://www.asahi.com/articles/ASJ883658J88UTIL00J.html

この事件について、心理学者の碓井真史氏*1が論評を行っている;


「杉並サンバ祭り会場火炎瓶事件はなぜ起きたか:高齢者犯罪の心理」http://bylines.news.yahoo.co.jp/usuimafumi/20160808-00060889/


「高齢者犯罪」が増えているということを踏まえてのものだけど、幾つか疑問を持った。「高齢者犯罪」の増加は社会自体の高齢化(総人口における高齢者の割合の増加)を上回るスピードで増えているということだけど、高齢者といっても幅が広い。増えているのは60代なのか、70代なのか、それとも80代なのか。自分自身が〈高齢者〉に近づいてきたからいうわけじゃないけれど、60代以上を十把一絡げに「高齢者」と呼んでしまうのはどうもリアリティを感じない。まあ、18歳未満を、生まれたての赤ん坊も高校生も均しく〈児童〉と呼んでしまうことと同じような違和感。
さて、


昔からの祭りについてなら、高齢者は物知りです。しかし、サンバについてなら若者の方が詳しいでしょう。
高齢者は伝統的なものに詳しというのは、現代の都市社会では自明なことではないと思う。この「火炎瓶」さんは68歳だけど、所謂〈団塊の世代〉ということになる。〈団塊の世代〉というのは十分に〈伝統〉から切れていると考えていいのではないか。或いは、「昔からの」ではない「祭り」、例えば音楽フェスとかについては先駆的な世代でもある。だから、

たとえば、昔から親しんできた祭りのにぎやかな音なら、懐かしく、楽しく、心踊るものになるでしょう。しかし、新しく始まった、理解できない祭りの音なら、同じ大きさでも騒音になってしまうでしょう。
というけど、「昔から親しんできた」音というのは所謂祭囃子じゃない可能性は高い。例えば1970年代のハード・ロックはいいけれどAKBとかはただの「騒音」だみたいなノリ。
以上のような疑問はあるけれど、幾つか重要なことは述べられている。曰く、「普通は泥棒や乱暴などして仕事や人間関係を失うことを私達は恐れますが、学校も会社も関係なくなり、さらには家族親戚との人間関係も希薄になれば、犯罪へのブレーキを失います」。孤独で社会的絆から強制的に解放させられてしまった人がやばいということ。しかし、それは高齢者だけのことじゃない。孤独で社会的な絆がぷっつりと切れてしまった中年とか若者はいくらでもいるだろう。また、

一般論ですが、心身のバランスを失ったとき、人は自分を傷つけたらり、他人に害を加えようとすることがあります。たとえば、仕事を失い、家族を失うなど、喪失体験が続くと、心身は大きなダメージを受けます。

特に突然一人暮らしになった高齢男性は、仕事や、仕事による収入や人間関係や生きがいを失い、職場や家族とのコミュニケーションを失い、慣れない家事の負担が加わり、バランスをくずしやすくなります。

怒りや恨みの感情も、おしゃべりや、様々な楽しい活動があれば薄れていくのですが、一人ぼっちで悶々と考え続けると、否定的な感情はますます高まります。

たしかに、高齢者が社会的孤立に陥る危険は高いといえるけれど、「喪失体験」にせよ「、一人ぼっちで悶々と」ルサンティマンを貯め込むことにせよ、やはり世代を超えて、現代社会に生きる私たち全てが何らかの偶発性によって陥りかねない実存的境位といえるだろう。
ところで、この「火炎瓶」に実際に遭遇してしまった人がいる。漫画家の堀道広氏*2



女子SPA!編集部「火炎瓶を投げた男を目撃!現場にいたマンガ家が語る恐怖【杉並・サンバ祭り火炎瓶事件】」http://joshi-spa.jp/566195