解放はされたものの

承前*1

寺内樺風によって誘拐され・長期に亙って監禁されていた少女に対して、〈何故2年もの間逃げなかったのか(寺内の許に留まっていたのか)〉と問責するような報道や言説があった;


千田有紀*2「女子中学生監禁事件、「なぜ逃げられなかったのか」という「理由」を問うことは暴力である」http://bylines.news.yahoo.co.jp/sendayuki/20160330-00055993/
尾木直樹「監禁被害少女に「なぜ声上げなかった?・なぜ逃げなかった?」という疑問は止めて!」http://ameblo.jp/oginaoki/entry-12144735846.html
HuffPost Newsroom「監禁被害の少女に「"なぜ逃げなかった?"という疑問は止めて」 尾木ママが訴える。」http://www.huffingtonpost.jp/2016/03/30/captivity-ogimama_n_9570680.html


その一方で、トラウマというか、事件の長期に亙る心理的ダメージを憂慮した報道も勿論ある。少しスクラップしておく。

産経新聞』の記事;


少女誘拐 監禁2年、少女の心のケアは… 温かな積極的関わりを
産経新聞 4月1日(金)7時55分配信

 約2年間にわたり、寺内容疑者の自宅内で監禁生活を強いられた被害者の女子生徒。日常生活に戻るには何が必要なのか。

 「監禁状態から解放されたからといって、女子生徒がすぐに安全や安心を感じることはない」と話すのは常磐大大学院の諸沢英道教授(被害者学*3だ。

 諸沢教授は、女子生徒が監禁生活による恐怖で眠れなかったり、無気力感に襲われたりする心的外傷後ストレス障害(PTSD)になっている可能性を指摘。PTSDの回復には通常、最低でも監禁期間の3倍の時間がかかるという。

 諸沢教授は「親の負担が大きくなり、その間に親の方がPTSDになってしまうこともある」として、行政や支援機関が家族ぐるみの治療プログラムを組む必要性を強調する。

 一方、臨床心理士長谷川博一氏は、女子生徒が監禁されている間、インターネットや漫画に触れたりすることができた点に着目。「典型的な恐怖支配ではなく、ある程度快適な生活が提供されたことで、女子生徒は自分が置かれた状況を正確に認識する感覚がまひした状態だったのではないか」と分析する。

 長谷川氏が懸念するのは、今後、女子生徒が受験や人間関係など成長の過程でストレスを感じた際に、「監禁時代の方がよかった」と考え始めてしまう可能性だ。長谷川氏は「現実生活が豊かで楽しいものであることを再認識させるためにも、家族や友人が温かみを持って積極的に関わっていくなど、適切な人間関係を構築することが必要だ」と話す。

 監禁中、中学校に通うことができなかった女子生徒。義務教育を受けられなかった空白を埋めるサポートも不可欠だ。学校側は卒業を認定したが、希望すれば再入学も可能という。

 女子生徒の自宅がある埼玉県朝霞市の担当者は「今回は特殊なケースなので、両親や学校などの関係者と相談しながら、女子生徒にとって一番いい方法を考えたい」としている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160401-00000089-san-soci&pos=1

週刊ポスト』の記事;


男性拒絶や依存も 監禁事件の被害少女を悩ます後遺症
NEWS ポストセブン 4月6日(水)7時0分配信


 埼玉・朝霞の中1女子監禁事件は、寺内樺風容疑者(23)の人物像や監禁生活の実態が捜査によって徐々に明らかになりつつある。次の焦点は、被害少女の円滑な社会復帰だろう。

 その点で参考になるのが、2000年に新潟・柏崎市で発覚した監禁事件である。被害少女は9歳から19歳までの9年2か月の間、犯人の自宅2階の部屋に監禁されていた。事件を追ったノンフィクション『14階段』著者の窪田順生氏*4が話す。

「被害少女は同年代とは明らかに違う19歳でした。外出もできずに栄養状態も悪く、足腰も弱っていたそうです。世の中のことはテレビを見て知っていたようで、犯人と競馬の予想をしたり、ときどき議論もしたりしていたそうです。それでも、学習面ではかなり立ち遅れていた」

 小学校高学年以降の9年間の教育を取り戻すのは至難の業だが、それ以上に深刻だったのはコミュニケーションの面だった。

「初めて会う人と話ができず、異性に対してずっと警戒心を抱いていたそうです。大人数と会うことも苦手で、人との関わりも親族と幼なじみの女の子などに限られていたといいます」

 朝霞の少女は寺内容疑者とともに外出する機会があったといわれるが、心理的支配下に置かれていたのは新潟の少女と同じ。同様の症状が出る可能性があると指摘するのは、精神科医の姜昌勲氏*5(きょう こころのクリニック院長)だ。

「思春期の大事な時期に事件を経験しただけに、影響が出るとすれば対人関係でしょう。被害者の性格にもよりますが、異性を過度に拒絶したり、逆に過度に依存的になってしまったりということが考えられます。不眠状態が続いたり、前触れもなくフラッシュバック(再体験現象)が起きたりすることもある。専門家による継続的なケアと家族のサポートが欠かせません。

 一番悪いのは、『逃げられたのではないか』『少女も悪い』という世間の声です。そうした悪意ある雑音にさらすべきではありません」

 新潟の少女は現在35歳になっているはず。近況は不明だが、「事件から数年後には自動車教習所に通えるくらいに回復したと聞いた」(窪田氏)という。
(後略)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160406-00000011-pseven-soci&pos=1

『日刊スポーツ』の記事;


脱出の女子生徒、困難乗り越えた強いサバイバー
日刊スポーツ 4月1日(金)10時15分配信


 2014年3月に行方不明となった埼玉県朝霞市の女子生徒(15)が東京都中野区で保護された事件で、埼玉県警は3月31日、未成年者誘拐の疑いで、東京都中野区の大学生寺内樺風(かぶ)容疑者(23)を逮捕した。

 新潟青陵大の碓井真史教授*6社会心理学)の話 女子生徒が、いつでも逃げられたんじゃないかという人がいるが「騒いだから殺した」という犯人は大勢います。殺されるかも知れないという危険は屈強な兵士であっても冒せない。

 誘拐当初、脱出を試みても難しいという経験が続けば「学習性無力感」という状況に陥ります。マインドコントロールのように、情報を遮断され「誰も捜していない」と教え続けられれば信じてしまう。

 また生き延びるためには、不本意でも加害者に「頼るそぶり」をします。加害者側はそれを好意と勘違いする。中野への引っ越しが無事に終わったことを容疑者は「好意」と受け止め、監視が甘くなる。生徒は無力感しか湧かない「恐怖の監禁部屋」から別の環境に移った時期に、父母が捜し続けていることも知った。だから「帰るんだ」という最後の気力を振り絞ることができたのだと思います。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160401-00000059-nksports-soci&pos=1

See also


尾木直樹「誘拐監禁少女の脱出の準備と実行への勇気が凄い!!」http://ameblo.jp/oginaoki/entry-12145309590.html