丁酉年二月初一問題

長谷川健「カレンダー「2017年問題」大安が仏滅に? ブライダル業界大慌て」http://withnews.jp/article/f0160113000qq000000000000000W02j0401qq000012911A


曰く、


2017年の旧暦2月はいつから始まるか――。実はカレンダーによって来年の「2月26日」と「2月27日」に分かれています。いずれの立場を取るかによって、来年3月に六曜の「大安」と「仏滅」が入れ替わる週末もあり、ブライダル業界などが対応に追われています。(後略)

そもそも六曜とは、旧暦の1日を起点に先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口を当てはめたもの。どの月始めにどの六曜が当てられるかはあらかじめ決まっていて、以降、上の順に配当されていきます。例えば旧暦の2月1日は「友引」。翌日は「先負」となります。六曜を配当するにあたっての「基準日」とも言えるのが旧暦の1日なのです。

 旧暦の日付は月の満ち欠けと連動していて、地球と太陽の中間に月が位置する「新月」の日が旧暦の1日。17年は1月に旧暦の正月を迎えることが分かっているので、2月の新月になる日が旧暦2月1日となるのですが、なぜカレンダーによってずれが生じているのでしょうか。

 それは新月になる時間にありました。国立天文台天文情報センターによると、現時点での計算では、2月に新月を迎える時間は何と「26日午後11時58分」。これを「26日に旧暦2月1日を迎える」と見なすかどうかで六曜の配当が異なっていたわけです。

 26日を旧暦1日と考えた場合、六曜は3月12日(日)・18日(土)は「仏滅」、19日(日)・25日(土)は「大安」に。しかし27日説をとると、12日・18日は「先負」、19日・25日は「仏滅」となります。


全国534の婚礼施設、婚礼関連の専門学校などで構成している公益社団法人「日本ブライダル文化振興協会」には、複数の施設からこの期間の六曜を確認する相談が寄せられています。担当者は「ブライダル業者の方としては2通りの暦をお示しすることしか現段階ではできない。毎年2月の最初の官報で、国立天文台から翌年の暦要項(れきようこう)が発表されるので、新月の日を正確に確認できるのはその時となります」と話しています。

国立天文台やカレンダーの専門業者・関連団体などでつくる一般社団法人「日本カレンダー暦文化振興協会」(暦文協)事務局の松原順さんも「暦文協では独自の暦計算で26日を旧暦2月1日とします。ただ、明石を基準とするか京都を基準とするかなど、暦には色々な解釈はありうる」と説明。松原さんによると、協会にはブライダル業者以外に神社関係者からも問い合わせが来ているそうです。
「日本ブライダル文化振興協会」*1とか「日本カレンダー暦文化振興協会」*2といった団体の存在は初めて知ったのだった。
さて、「旧暦」*3の本場である中国では26日か27日かという問題は発生していないようだ。検索してみたけれど、http://wannianli.tianqi.com/news/119089.htmlを初めとして、陽暦2月26日=農暦2月1日としているところばかりだ。これは日本標準時と北京時間の違いということだろうか。
上の記事によれば、若い世代でも「仏滅だけは避けたい」という意識は強いらしい。その一方で、昨年の後半には、大分県で「六曜*4が記載されたカレンダーにクレームがついて、全部回収する羽目になったということがあった*5。このギャップの方が不思議だ。因みに、「六曜」を使うことと差別特に「部落差別」の関係については全然わからない。というか、説得力のある説明には出会ったことがない*6。それよりも興味深いのは、暦(日柄)を巡る迷信には、「六曜」のほかに、「一粒万倍日」とか「三隣亡」などもあるのだが、これらはみな廃れてしまって、「六曜」だけが生き残っているということだ*7。なお、中国でも例えば結婚式の日取りに関する迷信は広く行われているが、「六曜」とは関係なく、十二支に基づくものだ*8。十二支は最初は「日」を表すのに使われ、年や時刻や方角に適用されるようになったのは後のことである*9。(特に日本では)十二支は、年については生き残っているが、日や方角については廃れてしまい、時刻については痕跡的に残っているということになるか。正午、午前、午後。
あと、ちょっと吃驚したのは「干支」の衰退ぶり。「干支」を鍵言葉にして検索してみると、出てくるのはみんな「十二支」に関するものばかり。それは「支」だけであって、「干」がないじゃん! もう既に、壬申の乱戊辰戦争も甲子園も意味不明な言葉になっているのか!

*1:http://www.bia.or.jp/

*2:http://www.rekibunkyo.or.jp/

*3:農暦或いは夏暦或いは黄暦。

*4:See eg. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AD%E6%9B%9C

*5:See eg. kyama77「いったいなぜ?「六曜」記載カレンダー回収にネットがざわついてる」http://matome.naver.jp/odai/2145109974696439401

*6:Eg. 羽江忠彦「六曜http://www.blhrri.org/old/jiten/index.php?%A1%F6%CF%BB%CD%CB なお、長谷川賢二「迷信・ケガレ観念と部落差別のあいだ」(http://www.museum.tokushima-ec.ed.jp/hasegawa/manyu/meishin.htm)はこのようなショート・サーキットな等値に対する疑問を提示している。また、「六曜が差別を助長するかっていうと、そんなことはないって話」(http://chappy-taka.hatenablog.com/entry/2015/12/26/140339)、山口透析テツ「「六曜は迷信」差別を助長?」(http://ameblo.jp/tousekitetsu/entry-12111933554.html)とかも見られたい。

*7:See 「六曜http://www.ndl.go.jp/koyomi/kotoba/02_rokuyo01.html

*8:See eg. http://baike.baidu.com/view/2727558.htm

*9:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%81%E4%BA%8C%E6%94%AF