起源は「緊急勅令」(メモ)

承前*1

東京新聞』の記事;


秘密保護法案 子孫の利益考えよう 思想史家・片山杜秀さん

2013年11月25日 07時02分



 機密漏えいの罰則を強化する特定秘密保護法案の衆院通過を、政府は急ぐ。高まる懸念の声は、永田町に届いていない。思想史家の片山杜秀さん(50)は、関東大震災(一九二三年)後に治安維持法が成立した政治状況と、3・11後の今を重ね合わせる。 (樋口薫)

 治安維持法が制定されたのは、関東大震災の二年後。社会を混乱させる流言を取り締まるために出された緊急勅令(治安維持令)が原型と言われています。

 二〇一一年に東日本大震災が起きました。社会が不安定になり、脱原発論のように、国家に都合の悪いことを言う人が増える中で、秘密保護法が成立しようとしている。両者は法としては開きがありますが、危機意識を持った国家が情報を統制しようとするという点は非常に似ている。

 治安維持法は、同時に制定された普通選挙法で左翼政党が伸びる可能性がある中、天皇中心の国体を護持するという、当時としての必然性があった。

 秘密保護法が外交、安全保障の司令塔となるとされる「国家安全保障会議(NSC)」とセットとなっているのは、ある種漫画的だ。わざわざ国家機密に関わる人を増やす部署を作り、機密漏えいを防ぐ新法が必要と主張しているのだから。

 戦争を否定した憲法下でNSCはたいした権限を持てない。役に立たない組織のために危険な法律を通そうとしている。

 最大の懸念は、拡大解釈の歯止めがないという点。担当大臣が「悪用しない」と口約束で逃れようとする。将来の法律の暴走を防げない。

 なぜ安倍晋三首相は、どうとでも解釈できるザル法を急いで作ろうとするのか。そこにあるのは、目先の支持率を維持し、経済成長だけを重視する刹那的な思考です。タカ派で人気がでたので、そこで実績を残そうとしている。

 冷戦後、日本は五五年体制に代わるイデオロギーの対立軸を見いだせなかった。与野党は微妙な差異で人気を競い、対立する意見の間でバランスを取るという思想はなくなった。

 今さえよければいいという刹那主義は、社会全体に広がっています。不安定な雇用や少子高齢化などの状況が、中長期的な思考を阻んでいる。

 その対立軸となりうるものは何か。今の利益でなく、子孫の代の利益を求めるという考え方ではないでしょうか。秘密保護法が恣意(しい)的に運用されれば、将来に禍根を残す。そう主張する人がもっと増えればと思います。

 かたやま・もりひで 1963年宮城県生まれ。慶応大教授(政治思想史)。音楽評論家としても活動し、東京芸術大で非常勤講師を務める。2008年、「音盤考現学」「音盤博物誌」で吉田秀和賞。12年、「未完のファシズム」で司馬遼太郎賞。

東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013112590070221.html

片山杜秀氏はhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131028/1382977158にも登場。

実に遺憾ながら、「特定秘密保護法案」が「衆院国家安全保障特別委員会」を通ってしまった。
『毎日』の記事;


秘密保護法案:衆院特別委で可決 与党が緊急動議で強行

毎日新聞 2013年11月26日 11時37分(最終更新 11月26日 13時58分)


 国家機密を漏えいした公務員らに厳罰を科す特定秘密保護法案は26日午前、衆院国家安全保障特別委員会で、自民、公明両党とみんなの党の賛成多数で可決された。安倍晋三首相が出席し、3党と日本維新の会の計4党による修正案の審議を行った後、与党が質疑を打ち切る緊急動議を提出して採決を強行。民主党など野党の反対を押し切った。慎重審議を求めていた維新は委員会採決を退席した。さらに与党は特別委理事会で修正案を衆院本会議へ緊急上程することを決定。同日中に衆院通過させる方針だ。

 安倍首相は委員会審議で「早期に法案が成立するよう努力する」と述べ、今国会成立への意欲を強調。一方、維新などが求めた特定秘密指定の妥当性をチェックする第三者機関の設置については「法案成立後に内閣官房に準備室を設置し、必要な検討を始める。その検討結果を踏まえ、具体的な措置を講じる。私は設置すべきだと考えている」と述べた。維新は第三者機関の詳細を政府側が説明するよう求めていたが、首相は「有識者の意見を聞き、米国の組織も参考にしたい」などと語るにとどめた。

 25日の福島市の地方公聴会で、意見を述べた有識者7人全員が慎重審議や法案への反対を表明したことに対しては、安倍首相は「さまざまな意見が出たということだ」と論評を避けた。また政府が現在保有している40万件超の「特別管理秘密」について「9割は日本の情報収集衛星の写真で、さらに暗号が相当な数だ。特定秘密は(さらに)対象を限定する」と説明した。

 与党は委員会審議に先立つ26日朝の同特別委理事会で、委員会採決と同日午後の衆院本会議への緊急上程を提案。採決に賛成していたみんなの党を除き、慎重審議や廃案を求める民主党、維新など野党各党は反対した。

 与党側は、この日の特別委の審議が全国にテレビ中継されていることを考慮。「首相がいる場で採決を強行する姿を国民に見せてはまずい」(自民党関係者)とみて、質疑を終えて首相が退席した後のタイミングで採決に踏み切った。民主党などは額賀福志郎特別委員長の席に詰め寄って抗議したが、額賀氏は審議を打ち切り、起立による採決を強行した。
http://mainichi.jp/select/news/20131126k0000e010146000c.html

 一方、維新の国会議員団は26日午前、役員会などで対応を協議。松野頼久幹事長は「なぜこんなに急ぐか分からないという国民の声を、しっかり受け止めるべく行動したい」と強調。記者団に対し、「合意に基づかない採決には応じられない。特別委の採決は欠席になる。本会議採決も欠席する」と述べた。維新は特別委の質疑に出席した上で、採決を退席した。

 民主、維新、共産、生活、社民の野党5党の国対委員長は特別委採決後、「与党が数の力で討論を封じ、採決を強行したのは断じて容認できない暴挙だ」などとして本会議採決を行わないよう、伊吹文明衆院議長に文書で申し入れた。

 政府・与党は参院に法案を送付し、会期末の12月6日まで約1週間の「スピード審議」で成立を狙う。しかし与党内には安倍政権の強引な国会運営を懸念し、「対決型法案だけに会期延長なしで成立は難しい」(幹部)との指摘も残る。

 秘密保護法案は、特定秘密を「漏えいが安全保障に著しい支障を与えるおそれがあり、特に秘匿が必要なもの」と定義。(1)防衛(2)外交(3)特定有害活動(スパイなど)防止(4)テロ防止−−の4分野で、閣僚ら行政機関の長が指定する。特定秘密を漏らした公務員は最高10年の懲役が科される。

 一方、法案には「国民の知る権利」「報道の自由」に配慮するとしているが、「著しく不当な方法」による取材は処罰対象となる。

 また、みんな、維新両党と与党の修正合意で、特定秘密の指定が30年を超える場合は内閣の承認が必要とした政府案に、60年を超えた特定秘密指定は原則解除する規定を追加。しかし暗号などの例外7項目も盛り込まれ、半永久的に不当な指定が続く可能性がなお残っている。また特定秘密の指定などを監視する第三者機関の設置検討を付則に新たに盛り込んだ。【高本耕太、阿部亮介】
http://mainichi.jp/select/news/20131126k0000e010146000c2.html