ピアソラ/ジョイス(丸谷才一)

月とメロン (文春文庫)

月とメロン (文春文庫)

丸谷才一*1バンドネオン」(in 『月とメロン』、pp.105-117)


ちょっとメモ。
ピアソラジョイスを巡って;


わたしがピアソラに関心を持つたのは筋が通つてますね。
もちろん彼の音楽そのものがわたしの心をとらへた。抒情的でよかつたが、構造がしつかりしてゐた。CDを何枚も買ひ、彼が音楽をつけた映画のDVDも手に入れた。映画はあまり感心しなかつたけれど(藝術と政治といふ二大イデオロギーに毒されてゐる)、音楽それ自体は作曲も演奏もすばらしい。しかし、その底を探ると、ピアソラの生き方は、ジョイスアイルランドといふ故国の辺境性に執着しながらそれと普遍的なものをしつかりと上手に結びつけたやうに、ピアソラブエノスアイレスとパリとをいつしょにした。うんと巨視的に言へばさうなる。何だかあまりに図式的にすぎて、こんな言ひ方、滑稽かもしれないけれど、しかし間違つてはゐないはずです。
二人とも、故郷喪失あるいは亡命者となることで、世界市民となつた。ジョイスアイルランド文藝復興に袂別したと同じやうに、ピアソラはタンゴを捨てやうと決意して……ピアソラ伝で一番おもしろいのはここの所ですね。(pp.108-109)
ピアソラということで、馬友友のSoul of the Tango: Music of Astor Piazzollaアル・ディ・メオラDi Meola Plays Piazzolaをマークしておく。
Soul of the Tango: Music of Astor Piazzolla

Soul of the Tango: Music of Astor Piazzolla

Plays Piazzolla

Plays Piazzolla