白樺派の古さ(小川国夫)

宗教論争

宗教論争

吉本隆明*1、小川国夫*2「家・隣人・故郷」(『宗教論争』、pp.11-53)*3から少し抜き書き。
先ず小川国夫の発言;


(前略)私の場合は、志賀直哉です。これはほんとうでして、たしかに志賀直哉の文章は頭だけではなく、体へ入っていると思うんですよね。だけれども白樺派というものは、いまの考えからするとたいへんに古いんで、やはりかねがね考えるんですが、つまり彼には戦争体験というものが、あまり濃厚に出ていないわけです、われわれが共感をもったり反発をもったりする形で。志賀直哉も戦争中のことをいろいろ書いたりはしていますけれども、かなり傍観者的な立場で、鈴木貫太郎がどうとかいろいろ書いているけれども、傍観者の随筆という感じがするわけですよ。吉本さんのを拝読しますと、そこがやはり、高村光太郎にしても、年配は志賀直哉に似ているかもしれませんけれども、それから小林秀雄なんかにしても、つまり戦争中に不可避的に戦争を通してものを考えていた人、いわばそこでかなり主な仕事と取り組んだような作家でしょう。そういうところで、僕と吉本さんはそう年は違わないと思うんですけれども、吉本さんの考え方というのは、終戦というのをある谷とすれば、そこへはっきり橋がかかっているわけですね。私の場合は、もちろん書く活動というものは終戦後にはじまりましたしね、その橋が霞のように曖昧なんですよ。そういうような意味でも、吉本さんのを読んだときに、違うなあとという感じを受けましたね。これが僕らの同世代のほんとうの感じ方かな、ということを考えるわけです。(pp.19-20)
それに対する吉本の答え;

僕も高村光太郎のことを書いたことがあるから、少し調べたことがありますが、戦争の最後のころになって、白樺派の人たちは、高村光太郎にわりあい近いところがあるからなんですが、いろいろな意味で、手をひいたほうがいいと盛んに勧めていますね、高村光太郎に。でも仕方がない、これまでコミットしたから仕方がないということで、手をひく時期を、高村光太郎は失したわけです。志賀直哉なんかは、けっこう戦争中もコミットしてやっているんですが、なんか手をひくひき方があると思うんですよ。それから太宰治が盛んに最後に食ってかかったように、志賀直哉の場合は、おまえのは詰将棋みたいなものでわかっているんだ、次にはどうやって詰むというのが最初からわかっている。芸術というものは、文学というものは、そんなものじゃないんだぞ、わからないおののきなんじゃなかいか、と、食ってかかっていますね。そういうことある面で、志賀直哉に言えるように思うんです。小川さんは盛んに志賀直哉のことを書いているだけれども、そんなに似ていないと思うんですね。文体も似ていないんじゃないかなと思うんです。(後略)(pp.20-21)
高村光太郎と戦争については、坪井秀人『戦争の記憶をさかのぼる』第4章*4を再度マークしておく。
戦争の記憶をさかのぼる (ちくま新書(552))

戦争の記憶をさかのぼる (ちくま新書(552))

*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050705 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050819 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060227/1141008207 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060605/1149478230 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070105/1167974950 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080130/1201705768 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080305/1204690984 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090213/1234550817 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090322/1237741323 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091120/1258696685 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100130/1264834811 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110202/1296628031 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110212/1297527735 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110709/1310185825 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110710/1310272673 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110711/1310400277 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110713/1310486787 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110718/1310962569 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110722/1311261926 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110825/1314210338 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120107/1325897887 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120316/1331898804 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120322/1332376701 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120529/1338312298 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120927/1348755638 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130129/1359438129 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130313/1363141131

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080408/1207670200

*3:初出は『文藝』1971年10月号。

*4:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050819