フィクションと現実(梶原一騎)

日本帰郷中にたしかNHKのニュースで、『巨人の星*1が印度で、野球をクリケットに置き換えてリメイクされたということを伝えていた。そこでは、日本の文化資源としてのアニメは凄いですねということと、『巨人の星』は高度成長期の上昇志向の産物(だから経済成長中の印度では受けるだろう)ということが強調されていた。それを視ながら、別のことを考えていた。『巨人の星』の物語というのは巨人と阪神の(当時の政治世界における自民党社会党との関係にも似た)不均衡な二項対立を前提としている*2。印度のクリケット界にそれと似た構造はあるのかどうか。それから、(『巨人の星』に限らないけれど)梶原一騎*3の物語世界の特徴の一つとして、星一徹とか星飛雄馬のようなフィクショナルなキャラクターと(例えば)川上哲治とか長嶋茂雄といった実在でかつ存命中の人物が対等な仕方で混じり合うということがある。こういうのは100年以上も前の世界を舞台とする時代劇では当たり前のことだろうけど、梶原的世界では受け手の記憶もまだ新しい数年前の世界が舞台だった。こういうフィクショナルなキャラクターと存命中の実在人物との絡みというのは印度版ではどうなっているんだろうね。斎藤貴男氏の『梶原一騎伝』によれば、梶原一騎におけるフィクションと現実との関係は1970年代になるとますます錯綜してきて、例えばアントニオ猪木を恐喝したとかといったスキャンダルはこうした絡みの中で発生することになる。、『巨人の星』のplausibility structureが弱体化したのは、高度経済成長が終わった云々ということだけでなく、寧ろ何よりもそれが前提としていた(上述の)巨人/阪神という二項対立、また「巨人」の権威というのが、その後のナベツネなどの努力にも拘わらず(というかナベツネの努力故に)崩壊してしまったからだろう。

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梶原一騎伝 (新潮文庫)

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