King of Mountain

承前*1

大阪府大阪市の簒奪に成功した橋下徹だが、留意しなければいけないのは、みんなの党だけでなく、亀井静香小沢一郎も、さらには石原慎太郎までが橋下に擦り寄っているということだろう。あれだけ「既成政党」を敵視していたにも拘わらず。或る人曰く、


一部の人たちの危惧に私も共鳴する。ある点で自民党内異端だった小泉よりホンモノ度が高いからだ。彼は何者でもない。まだどこにも所属していない。これから何かになろうとしているのだ。ああこわい。
http://d.hatena.ne.jp/nessko/20111128/p1
日本のルイ・ボナパルト? 現象としての橋下徹を理解するためにはマルクスの『ルイ・ボナパルトブリュメール十八日』を読まなければならないのか(汗)*2
ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日 (岩波文庫 白 124-7)

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さて、橋下徹大阪市長の座を途中で放り出して「国政」に転ずるのではないかということを考えている人はけっこういるようだ*3。そうなんだと納得すると同時に、そうかなと疑問も擡げてくる。市長や知事というのはお山の大将であり、カダフィ気分、金正日気分も味わうことができる。しかし、「国政」はそれとは訳が違う。仮令橋下がトップ当選したとしても、(平等に)何百人もいる国会議員の1人でしかない。彼が自民党に入り込むのか民主党に入り込むのか、はたまた噂の右翼新党に入るのかわからないけれど、政党所属の新人議員なんて、一に忖度、二に忖度、三四がなくて五に忖度の世界なのではないか。小沢一郎亀井静香だって、新人橋下にでかい面はさせないだろう。勿論、あの城内実のように無所属に留まれば孤高のプライドを保つことができるけれど*4、その影響力はなく、お山の大将ならぬblogの対象になるのが関の山だ。そういう屈辱に耐えられるのかどうか。
さて、『読売』の記事;

下流に文化団体、戦々恐々…交響楽団消える?

知事時代、「文化は行政が育てるものではない」と公言してきた橋下徹・前大阪府知事が19日に大阪市長に就任するのを前に、市内の音楽や芸能関連の団体が戦々恐々としている。

 橋下知事当時、府が出していた補助金を全額カットされた大阪フィルハーモニー交響楽団(大フィル)や、「観賞したが、2度は見ない」と酷評された文楽団体などは、市から多額の補助金を受けているためだ。

 「補助金がなくなると、本当に大変なんです」

 大フィルの佐々木楠雄・常務理事は11月30日、市の担当者に電話で、楽団の厳しい台所事情を訴えた。

 指揮者の朝比奈隆さんが創設に関わった大フィルに対しては、市が「市の文化振興に不可欠」(平松邦夫市長)として補助金1億1000万円を支出。年約10億円の運営費の一部に充てられてきた。

 だが、橋下氏は知事時代、「行政や財界はインテリぶってオーケストラ(が大事)とか言いますが、大阪はお笑いの方が根付いている」と発言。大フィルへの年約6300万円の府補助金を2009年度から全額カットした。市長になった橋下氏が再び大なたを振るえば、運営難は必至で、「死活問題だ」と佐々木常務は焦りを隠さない。

 実際、橋下氏に年約4億円の府補助金をゼロにされた日本センチュリー交響楽団は今年度、橋下氏との合意で運営財源に回せるようになった基本財産20億円のうち、約2億6000万円を取り崩し、再生の道を探る。コントラバス奏者、坂倉健さん(53)は「このままでは大阪からオーケストラが消えてしまう」と危機感を募らせる。

 大阪市から年5200万円の補助金を受ける財団法人・文楽協会も憂鬱(ゆううつ)だ。

 橋下氏は09年8月、「文楽を見たが、2度目は行かない。時代に応じてテイストを変えないと、(観客は)ついてこない」と発言。07年度に3600万円あった府補助金は11年度、2000万円に減った。同協会の三田進一次長は「採算が難しく、行政が手を引くと土台が崩れる」と戸惑う。

 府や市など主催の「ミュージシャングランプリOSAKA」は、「トイレの神様」が大ヒットした植村花菜さんが02年に優勝し、メジャーデビューにつながった大会だ。しかし、府助成金は08年度に廃止され、大阪市が府分を穴埋めする形で負担してきた。関係者は「市の予算が削られれば、10周年の今年が最後の大会になるかも」と危惧する。
(2011年12月3日17時48分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20111203-OYT1T00483.htm

大阪から「交響楽団」がなくなると、失業したミュージシャンたちは田舎に帰って「おくりびと*5になるのか。それはそうと、まあ「交響楽団」もない都市はいくら人口が多くでも都市(metropolis)に値するかという問題はあるわけで、日本第二の都市に「交響楽団」もないということになれば、それは既に国辱ものだろうということはある。これは「橋下が大阪府立校の非正規職員350人の首を切った件や、大阪の私立高校に対する補助金削減の件に関する討論会で女子高校生を泣かせた件と同じで、「弱者から切る」、「切りやすいところから切る」という「橋下流」の典型例といえる」のだろうけど*6、彼は大向こうのウケも当然狙っているわけだ。その共鳴点は仏蘭西語で謂うところのhumanisme、漢語で謂うところの人文に対するルサンティマンに基づく軽蔑だろう。とはいっても、これは橋下の出自に還元できる話ではなく、社会全体に拡散している態度のひとつだとは思う。もっとディーセントな出自の人だってそういう態度を取っているわけだし*7。そもそも愚民なくして暴君は存立し得ず、橋下の暴言も大衆的なルサンティマンと共鳴しないかぎり、破壊力は持てないわけだ。
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