壺を振っても

最近http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100920/1284997983で、植草一秀統計学についての理解*1に突っ込みを入れたのだが、「東京第5検察審査会」が小沢一郎の強制起訴を議決したことを巡って、田中康夫*2が何か変なことを言っているらしい*3。「検察審査会」の平均年齢が30.9歳*4というのがおかしい、若すぎる、何か人為的な操作があるんじゃないか、と。
それについて、古寺多見氏の


(前略)さらに私が気になるのは、「重い病気、海外旅行その他やむを得ない事由がある」場合は、検察審査会が「承認」すれば辞退できることになっていることだ。

働き盛りの人の場合、真の理由は「重い病気、海外旅行その他やむを得ない事由」でなくて単に「仕事が忙しい」場合であっても、適当な理由を作り上げて辞退する場合が結構あるのではないか。実際、私自身の仕事がもっとも忙しかった時期のことを思い出すと、なんだかんだ理由をつけて辞退しようとしたに違いないと思うし、20代の頃はそんな状態ではなかったなとも思い出す。もちろん、40代よりはるかに忙しい20代も多いだろうが、一般的には仕事をする人間が背負う責任は年齢を重ねるにつれて重くなる。正当な理由のない辞退には罰則があるとは聞いているが、本当に忙しいビジネスマンなら、どんな手を使っても審査員になることを逃れようとあの手この手を使うだろう。検察審査会に金品を贈ることだって考えかねない。

辞退可能性を考慮に入れた母集団の年齢構成を正確に推定すること自体が不可能だが、正当、不当を問わず、何らかの理由で審査員を辞退した中年が多かったとすれば、平均年齢が下がることは十分に起こり得るのではないか。私が立てている仮説は、こうしたズルが結構横行しているのではないかというものだ。
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20101011/1286807873

という解釈も興味深いが、もっと統計学というか確率論の基本に関わることだろうと思う。
理論的には、骰子を投げれば1〜6のどの目も同じ頻度で出てくる。しかし、経験的にはそうでないことが多い。また、同じ目ばかり連続して出てくることもよくある。理論と一致するように出てくる目の頻度が均されるにはそれなりの試行数が必要なのだ。だから、半が何回も続いたので次は丁に賭けようとしても、また金を擦ってしまう可能性は高い。それから、ここでイカサマだ! とキレれば、かなり高い確率で簀巻きにされて東京湾に投げられてしまうことになる。「検察審査会」の抽出だけど、20歳以上の日本国民というきわめて大きな母集団から11名。つまり、試行は11回だけ(辞退者とかもいるので、実際はそれより多い筈だけど)。サンプル数が少ないと批判される與論調査よりもさらに少ない。このくらいの試行数だったら、サンプルがばらけない状態(博打の例で言えば、半ばかり続けさまに出てくる状態)が出現しても不思議ではないと思う。勿論、年齢層やジェンダーのバランスを維持するために、クォータを設定してサンプリングするということは検討に値するとはいえるだろうけど。
確率論の基礎知識に関しては、小島寛之『サイバー経済学』を取り敢えずマークしておく。この本はタイトルはアレだけれど、内容はまっとうです。
サイバー経済学 (集英社新書)

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ところで、平均年齢30.9歳の若造集団に何がわかるんだという声もあるという。最近高齢者が若者を搾取しているとか、世代間対立を煽る言説も多いわけだが、そういう人たちはこのあからさまな〈若者差別〉言説にどういう反応をするのか。