「タレント候補だっていいじゃないか」(野坂昭如)

承前*1

野坂昭如「タレント候補」『毎日新聞』2010年5月22日


少し抜き書き;


7月の参議院選挙に向けて各党から出馬予定のいわゆるタレント候補者の名があがり、このところ取り沙汰されている。タレント候補の名を聞いて、拒絶反応を示す有権者も多い。党側としてはこの際、国民的英雄の人気に肖ろうとあちこち声を掛け熱心に口説く。成立すれば相好を崩し、愛想笑いを浮かべて迎え入れる。これまでも元○○やら、それまでおよそ政治とは縁のない業種の方が、突如立候補して世間を驚かせ、あるいは呆れさせたことはある。中には昔とった杵柄を忘れられず、売名行為と謗られても二度三度繰り返す方もいる。確かになぜ政治家を志すのか訳の分からない人は多い。しかしぼくは、タレント候補だっていいじゃないかと思う。スポーツならスポーツの道で懸命に努力した過程で気づいたこともあるだろう。それを政治の上で生かせばいい。政治には素人かもしれないが、通りいっぺんの政治家より人間をよく知っている場合もあるのだ。人間通こそ、政治家の第一の資格。
昔はもっと自由に誰でも立候補できた。政治を志すのにそんなにお金がかからなかったのだ。今は供託金の設定が高い。つまり大きな組織に入らなければ立候補できない仕組み。供託金を高くしてあるのは、泡沫候補の乱立や売名行為を防ぎ、自由でのびやかな選挙を行うためだとされている。実際はどうか。以前から問題視されている2世3世の世襲議員。あるいは別の大きな後ろ盾がある候補者ならいいのか。どちらがと比べるものではないが、どんな人でも立候補して自分の真剣な想いを主張する権利はあるはず。
戦前はお上に都合のいい翼賛選挙が当たり前だった。この点でいえば、泡沫候補やタレント候補の出馬し得る世の中は正常ともいえる。あとは世間が判断すればいい。
そういえば、「供託金」制度に対する批判的なコメントというのはあまり聞かない。格差とか平等に敏感な人であっても。


さて、『毎日新聞』千葉版の山田泰正「防空壕 来春公開へ」という記事によると、旧下総御料牧場(現・三里塚記念公園)に掘られた防空壕が来春一般公開されるという。この防空壕は太平洋戦争開戦前に極秘で建設が進められたため、宮内庁財務省にも記録が残っていないという。ただ、施工した間組の社史には「昭和16年10月、宮内省匠寮から発注を受けた」という記述があるという。